SOURCE日本株
ブーム化する自社株の消却。
ROE&PBR向上で株価激変

3月以降、日産自動車やNTTドコモといった大企業による自社株消却が相次いだ。株主による利益還元圧力が高まる中、「金庫株」として寝かせてきた自社株を処分する企業が増えそうだ。自社株の消却には、ROE(自己資本利益率)向上の効果もあり、株高材料として注目される。

自社株の消却とは文字通り、自社株買いとして集めた株式の効力を失わせること。株式数が減るので、1株当たりの利益額が増え、株価を上昇させる。

日産は3月25日の取引時間中、2600万株の自社株を消却すると発表した。発行済み株式数の0・6%に相当し、当日から翌日にわたって株価は上昇した。

同日大引け後にはNTTドコモが発行済み株式数の3・1%を消却すると発表し、株価を上げた。NTTドコモによる自社株消却方針のニュースは半月前に報じられ、株価を押し上げていた。そして今度は、正式発表があらためて株高材料視された格好だ。市場関係者の間では「投資家の自社株消却への期待感を示す現象だ」として話題になった。

企業が自社株を買った場合、当面は「金庫株」として保管しておく。かつて紙だった株券を会社の金庫にしまい込んで置くイメージである。

将来、株価が上昇した場合に、金庫株を再び市場で売れば現金を調達できる。社債発行や銀行融資は証券会社やメインバンクとの事前調整を必要とするが、自社株売却なら経営陣の判断で素早く資金調達できる。しかも、他社買収(M&A)の際には、株式交換用の株式
として金庫株が使える。

一方、金庫株が放出されると需給が緩み、株価が下がりかねない。このため、できるだけ早い金庫株の消却が株主の要望である。

市場の注目はトヨタ自動車。大株主一覧を見ると、2位株主として自社が登場する。自社株買いで集めてきた金庫株が発行済み株式数の9%近くに膨らんでおり、市場に戻せば株価の急落を招くリスクがある。

一方、消却すればこうした懸念は消え去り、株価の急伸を呼びそうだ。日本企業最大の時価総額を持ち、他社への影響力も強いだけに、仮にトヨタが自社株消却に動けば、日本株市場全へのインパクトは大きい。

また、好業績でありながらPBR(株価純資産倍率)などの指標が低迷している企業も、自社株消却の有力候補になりそうだ。

表に掲げたのはトヨタのほか4銘柄。

スズキは発行済み株式数の12%余りを3月末で消却した。転換社債と自社株買いを抱き合わせた「リキャップCB」と呼ばれる調達手段で、発行株数の増加を抑制しながら、新株を発行する方法として普及しつつある。発行株数を機動的に変化させることに対して、経営陣の抵抗感がなくなれば、今後は自社株消却が株主還元策のひとつとして定着するだろう。

また、2016年3月期も東証1部全体で税引き後利益は過去最高を更新する見通し。利益が増えれば、株主から還元するよう要求する声も強まる。注目は伊藤忠商事。2016年3月期は最高益を更新したとみられ、2017年3月期も連続増益が期待される。配当性向は
25%と高くも低くもないが、増配だけでなく、自社株買いも選択肢に入ってくるだろう。

伊藤忠の株価は約1300円でPBR0・8倍台にとどまる。好業績が反映されていないどころか、解散価値さえ下回っている。株主は業績には満足していても、利益還元には不満が大きいのかもしれない。こんな企業が自社株買いに動けば、PBRの割安さは一気に解消し、株価は大幅高となる可能性を秘めている。