「平凡けっこう。欲しいのは芸術じゃない。売れる商品だ」
「でも、それじゃ、個性のない横並びの作品ばかりになってしまうんじゃ……」
「利益も出してないのに、偉そうに言ってるんじゃないよ!」


TBS火曜夜10時枠のドラマ『重版出来!』。週刊マンガ雑誌の編集部を舞台に、新人女子編集者・黒沢心(黒木華)と彼女を取り巻く人々の奮闘ぶりを描くお仕事ドラマだ。

視聴率はヒト桁台を行ったり来たりしているが、朝日新聞の「はがき通信」によると、4月スタートのドラマの中で反響のはがきの数が『とと姉ちゃん』などよりも多く、4月最多だったという。届く人には届いているということか。

先週放送の第4話は、対照的な2人の新人マンガ家と、これも対照的な2人の編集者についてのお話。安田顕演じるイヤミな編集者“ツブシの安井”が徐々に本領を発揮していくぞ(冒頭の会話は安井と心によるもの)。

BL同人誌出身の女子大生VSドヘタな異能の男


新人の持ち込みを見るようになった心は、デビューを目指す2人の新人マンガ家と出会う。ひとりは、大学のサークルでBL同人誌を描いていた女子大生・東江絹(高月彩良)。就職活動の時期でもあり、プロのマンガ家になろうか迷っている最中だったが、同人誌即売会で心と出会って持ち込みを決意する。

もうひとりは、同じく同人誌即売会の出張マンガ編集部で心と出会った中田伯(永山絢斗)。画力は拙いが、圧倒的な独自のセンスを持つ。他の雑誌の編集者は相手にしなかったが、心は伯の原稿に引き込まれる。絹と伯は、心の担当のもとでプロデビューを目指すことになった。

ところが、絹は高い画力を持っているものの、うまくストーリーを構成できないという弱点があった。数ヶ月にわたって何度もネームを没にされ、憔悴していく絹。一方の伯は、画力こそまだまだだったが、流れるようにストーリーを紡ぎ、順調に新人賞とその先の連載を射程に入れていた。

焦る絹に突然の転機が訪れる。心の先輩である『バイブス』編集部の安井から直接連絡が入ったのだ。安井はインターネットで作品を発表していた絹の画力に目をつけ、ベストセラー小説を原作にしたマンガを描かせようとしていた。「新人賞とかすっとばして、東江さん、いきなりプロのマンガ家です!」。ねっとりと口説く安井に、絹の心は揺らぐ。

結局、絹は編集者として実績のある安井を選ぶ。無力な心はワンワン泣くしかなかったのであった……。つづく。

良い作品を作ることと利益をもたらすこと


絹と伯は、画力と構成力、さらに家庭環境などが対照的な存在として描かれるが、マンガ家としてプロデビューを目指すという根本の部分は共通している。「キヌ」と「ハク」は同じ「帛」という漢字の読み方であり、真っ白い絹布という意味を持つ。まさに、デビュー前のまっさらな存在ということだろう。

きっぱりと対照的に描かれているのは、マンガ編集者である心と安井だ。心は、「良い作品を作りたい」という一念でマンガ家と作品づくりに取り組んでいる。マンガ家の個性を尊重し、そのマンガ家にしか作れないオリジナルの作品を目指している。

一方、安井はひたすらビジネスライクだ。ベストセラー小説を原作に据えてコミック化を進めるとともに、大手芸能事務所とタイアップしたドラマ化も同時に進めている。メディアミックスを進めることで、マンガを売り、会社に利益をもたらす。マンガ家はそのためのコマに過ぎず、作家の個性などについては考慮しない。ただし、マンガ家には事前に伝えた印税をきっちりと支払う。

『重版出来!』という作品(原作もドラマも含めて)のユニークなところは、「心も正しいが、安井もまた正しい」というスタンスを貫いているところだ。これが『半沢直樹』や『下町ロケット』なら、安井は裏で不正を働き、マンガ家志望の若者を酷い目に遭わせながら甘い汁をたっぷり吸って、心たち“正しき編集者”に成敗されるだろう。しかし、『重版出来!』では、そんなことは起こらない。

編集者の白い部分と黒い部分


マンガ家のゆうきまさみ(作中に登場する『ドラゴン急流』のマンガを提供している)は、かつて自らの担当編集者であり、松田奈緒子『重版出来!』の原作の担当編集者であるヤマウチナオコ氏について、次のようにツイートしていた。

「この作品の担当やってるヤマウチさんの中に、五百旗頭も安井も両方いるんだよ。」


エキレビの『重版出来!』についての記事に対するツイートだった)

また、今回のドラマ放映にあたって、あらためて次のようにツイートしている。
「ヤマウチさんの中にはもちろん黒沢が住んでいて、こちらは白ヤマウチ。だけど色々あって実は安井も住んでいるんだと思うのですよ。だから安井は黒ヤマウチ(笑)」
https://twitter.com/masyuuki/status/727508071228956672

ヤマウチ氏自身も、「編集者には白い部分(熱意)と黒い部分(商売)が両方必要、それがないと作家さんと雑誌を守れないんですよね」と応えている。


白い部分(熱意)と黒い部分(商売)>が一人の編集者の中にバランス良く入っているのがベストだが、心と安井に関してはそれが両極端に分離している。個人的には、白黒のバランスが良い編集者より、白黒分離している編集者のほうが出版界には多いと思う。心とペアを組む伯と、安井とペアを組む絹がそれぞれどのような道を歩むのか、今後の展開に注目したい。バランスの取れた五百旗頭(オダギリジョー)と組む新人マンガ家・大塚翔(中川大志)の歩みを補助線にすると、さらにわかりやすいだろう。

余談だが、「この便利な時代に、持ち込みに来るわずかな人間だけ相手にしてても仕方ないでしょ?」と言う安井は新人の持ち込みを否定しており、インターネットで見かけた有望な(画力の高い)マンガ家をスカウトするという手法を用いている。

安井と似たようなことを発言しているのが、『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などの大ヒット作の担当編集者であり、現在はクリエイターのエージェント会社・コルクの代表を務める佐渡島庸平氏だ。

佐渡島 (前略)おもしろいひとがどこに作品を出すのかなと考えた時に、今はネットに載せるんだと思うんですよね。昔だったら出版社に持ち込んだのかもしれないわけですが。
メディアビジネスの未来 コルク佐渡島庸平「有名作家だけでなく、新人もサポートしていきたい」

佐渡島氏は持ち込みについて「昔だったら」とサラッと発言しているが、持ち込みを熱烈に歓迎する心とSNSなどを駆使する安井は、「昔ながらの編集者」と「現在形の編集者」という切り分け方もできるのかもしれない。

さて、本日放送の第5話は、心たちが働く出版社社長(高田純次)の意外な過去が判明するエピソード。純ちゃんの真面目な芝居が炸裂するぞ!

『重版出来!』の先週分を見逃した人は、TBSオンデマンドにて無料視聴が可能(本日21時59分まで)。見逃した人は要チェック。
(大山くまお)