ライターの小田慶子です。こちらの連載では、“朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のレビューを月ごとにしていきたいと思います。

のちに成功するヒロインのビジネス事始めとしての一ヶ月

 4月4日からスタートした「とと姉ちゃん」。現在のところ、第4週までの平均視聴率が約22%と好調です。高畑充希さん演じるヒロイン・常子のモデルが、雑誌「暮しの手帖」を創刊した実在の人物、大橋鎭子さんというのは、皆様もうご存知ですね? 劇中で常子がそれらしい姿を見せたのは第1話の冒頭、出版社でのワンシーンのみでしたが、4月放送分は、そこから時代を遡って常子の生い立ちを振り返りつつ、彼女がのちに成功する礎となったビジネスの基本を会得していく様子も描かれているように見えました。

週間振り返り

第3週、学習能力が高い常子は、材木商「青柳」を営む祖母の滝子(大地真央)に連れられて得意先回りをするうちに、その目的が何であるかに気づきます。

「おばあ様のお仕事って、世間話をしながら情報を集めて、先行きを判断していくことなんですね」

「跡継ぎが放蕩息子」と聞いた店とは取引をやめるなど、損をしないように先回りして思い切った決断をしていく君子。情報収集のやり方と先手を打つ大切さを、常子は祖母から学んだのでした。また、とにかく顔を合わせて仕事するという方針は、有名作家や皇族にも直接会って原稿依頼をしたという大橋鎭子さんの姿と重なります。

第4週では、弁当の配達先を間違えてしまうというピンチが発生し、常子たちは女将の“まつ”(秋野暢子)から、こう教えられます。

「あたしらが落としちゃいけないものがふたつあるんだ。“味”と“信用”さ!」

“生涯未婚”のヒロインを囲む周囲の女性

シンプルだけれど、これぞ商売の極意。この精神は、常子が後に出版社を立ち上げてからの物語にも活きてくるのではないでしょうか。「味」=「商品テストをする雑誌の内容」、「信用」=「読者目線に立った誠実な誌面づくり」と考えると、モチーフとなった「暮しの手帖」のイメージに直結します。材木商も仕出し屋も出版とは畑違いなのですが、常子が実地でメンターから役に立つ助言をもらい、それを吸収していく様が生き生きと描かれていました。

そして、常子にとっては優しい母親ですが、実社会でお金を稼ぐ手段を持たない君子(木村多江)の無力さも浮き彫りに。それとは対照的に、経営者としての誇りと緊張感を持って働く滝子と“まつ”に出会ったことは、常子が母親とは違う道を歩むきっかけになったのではないでしょうか。なんといっても、モチーフである大橋鎭子さんがそうだったように、常子は朝ドラ史上例を見ない“生涯未婚”のヒロインになりそうなのです。

女が思うように生きるとは……今月の名言

【今月の名言】は、女が仕事することの厳しさを知る祖母・滝子の金言!

第3週には、心を揺さぶられる場面がありました。常子の祖母・滝子は、常子を養子の清(大野拓朗)と結婚させ、家業を継がせたいと申し出ます。それを聞いた母の君子は猛反発。「あの子たちには思うように生きて、幸せだと感じられる女の人生を……(歩ませたい)」と涙ながらに訴えますが、「甘いこと言うんじゃないよ!」と滝子に一喝されてしまいます。

滝子「女が思うように生きるっていうのは、自分の暮らしを落ち着かせたその後に、ようやく考えられることなんだ」

滝子は、駆け落ち同然に家を出た君子が、夫に死なれてから帰ってきたことを責め、

「女なんか今の時代、どこで働いたってろくに稼ぐことなんてできないんだよ。お前もそれは味わったんじゃないのかい?」
「この青柳に入れば、食うに困ることはないんだ。そうやって余裕がある暮らしを送れるようになってから、やりたいことができるようになるんじゃないのかい」
と畳み掛けてきます。

今の時代にも通ずる、女性の貧困

これらのセリフには、現代に生きる私たちが「これは80年前の古い時代の話でしょ」と切り捨てられない重みがあります。君子は3人の子を抱え就職先が見つからないシングルマザーですが、例えば平成23(2011)年厚生労働白書によると、シングルマザーの平均年間就労収入はわずかに181万円。そんなシビアな現実を知ると、「女なんか今の時代、どこで働いたってろくに稼ぐことなんてできない」という滝子の言葉が、私たちのハートにもグサグサと突き刺さります。夫を早くに亡くした滝子もまたシングルマザーであり、全力で家業を守ってきたからこそ、なんとか生活レベルを保ってこられたのでした。

前作の「あさが来た」との比較

「余裕がある暮らしを送れるようになってから、やりたいことができる」というセリフも実に現実的。ここで、前作「あさが来た」のヒロイン“あさ”(波瑠)を思い出してください。“あさ”は父親の決めた縁組に従って大阪の両替商に嫁ぎ、そこでビジネスの才能を開花させて成功。晩年は女子大学の創立という夢を実現させました。自由恋愛や職業選択の自由を求めなかったからこそ、それと引き換えに自分のやりたいことができた“あさ”。まぁ、これはたまたま幸運にも夫の新次郎(玉木宏)が妻を支えるタイプの男性だったから成し遂げられたことなのですが、実話に基づいた物語だけにリアリティがあります。

脚本家の意図

脚本家の西田征史さんは公式ガイドブック、『とと姉ちゃん part1 連続テレビ小説(NHKドラマ・ガイド)』(NHK出版)の中でこう語っています。

「描く時代を過去にしたのは、目の前の現実が厳しい現代において、昔の話として見るほうが、かえって素直に今の人の心に響くのではと思ったからです」

まさに、その意図どおりの現代にも通じる問題を言い表した名セリフでした。5月は君子と滝子の確執がどうなるのか、そして常子が何を学ぶのかを楽しみに、見続けたいと思います。

関連リンク:NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」公式サイト