最近、台湾に行ったら、中国大陸の観光客が激減しているので驚いた。とにかく、台北市内の観光名所に行っても、中国人の団体客が全然いないのだ。写真は台北の中正紀念堂衛兵交代式。

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最近、台湾に行ったら、中国大陸の観光客が激減しているので驚いた。とにかく、台北市内の観光名所に行っても、中国人の団体客が全然いないのだ。

2年前の一昨年5月に台北を訪れた際、市内は中国人観光客だらけ。市内中心部で、蒋介石台湾総統を祀っている中正紀念堂は、まるで蝋人形のように表情を変えず、指先すらも動かさない儀仗兵が有名だが、中国人観光客のあまりの騒々しさと、立ち入り禁止の柵内にずかずかと上がり来むなどのマナー違反から、本来は動かないはずの儀仗兵が怒って、持っていた銃剣付きの銃の台座を何回も床に叩きつけていたほどだ。

ところが、今回は様変わりで、春休み中の親子連れの日本人団体観光客が多かったせいか、極めて静かだった。

このような状態は中正紀念堂だけかなと思って、約33万人の英霊を祀る郊外の忠烈祠や故宮博物院にも足を伸ばしてみたが、結果は同じ。台湾で最も高い「101ビル」にも寄ってみたものの、やはり大陸からの観光客の姿はほとんどなかった。

いったい、どうなっているのかと思い、地元のジャーナリストに聞いてみた。すると、彼は「1月の台湾総統選挙や立法院(国会に相当)選挙で、野党の民主進歩党(民進党)が大勝利したので、中国の観光業者が台湾渡航業務を自粛しているらしいのです」と苦笑いしていた。

3月から中国人観光客の団体ツアーの入台許可申請数が1日当たり1万1千件と昨年同期の1万8千件に比べて約40%も減少。台湾を訪れた昨年の外国人観光客1千万人のうち、4割以上の420万人が大陸からの中国人観光客だけに、年間約170万人もの激減となる。

民進党はもともと台湾独立志向が強く党綱領にも独立の条項が入っているため、台湾独立に絶対反対の中国共産党政権は民進党の動きを警戒。習近平国家主席は「いかなる台湾独立の分裂行為も阻止し国家主権と領土を守る」と強調したほどだ。

台湾の対中国大陸窓口機関「海峡交流基金会」の会長も務めた江丙坤・東京スター銀行会長は「中国側は次期台湾総統の蔡英文氏や民進党指導部に対し『1つの中国』を認めるよう求めており、蔡氏が5月20日の総統就任式の演説で台湾独立問題について、どのように言及するか注目している」と指摘する。

実際、中国は最近、「1つの中国」を中台の当事者が認め合ったとされる「92年コンセンサス」について、蔡英文主席ら次期民進党指導部に認めるよう意思表示せよと迫っている。認めなければ、「両岸和平即毀((中国と台湾の和平は即壊れる」と警告している。
筆者が台北で蔡氏に近い関係者に聞いたところ「蔡氏も現状維持を希望しているが、コンセンサスを認めるのは難しいだろう」と指摘しており、中台両岸関係は新政権発足を待たずに波高しといったところだ。

◆筆者プロフィール:相馬勝
1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。