車椅子バスケットボールのクラブチーム日本一を決める日本選手権が、今年もゴールデンウィークに開催された。

 日本代表クラスの選手が揃う絶対王者・宮城MAXと、8大会ぶりの優勝を目指す強豪・千葉ホークスの決勝は、第1ピリオドから攻守ともに宮城MAXが付け入る隙を与えず、73−44で圧勝。例年以上の約2800人の観客、そして約100人のメディアが、宮城MAXの8連覇を見届けた。

 44回目を迎えた今大会のトーナメントを盛り上げたのは、やはりこの2人だった。9月に開催されるリオパラリンピックで過去最高の6位以内を狙う、日本のダブルエース、藤本怜央(宮城MAX)と香西宏昭(NO EXCUSE)だ。

 2人はドイツリーグの車椅子バスケットボールチームであるハンブルガーSVに所属している。ドイツでは、同じ釜の飯を食うチームメートであり、4月末のユーロカップに参戦した後、今大会直前に帰国。それぞれのチームに戻り、日本一をかけた戦いを繰り広げたのだ。

 宮城MAXに所属する藤本は、ドイツでの2シーズン目を終え、日本選手権出場のためにチームに合流した。昨年も直前までチームを不在にしていたが、ガード・豊島英の得点力がアップし、MVPを獲得する活躍。さらにエースがいなかったことで鍛えられたチーム力が、藤本の成長と見事にマッチして圧倒的な強さで7連覇を達成した。そして迎えた今年、宮城MAXは藤本不在の間に、長谷川杯や関東カップなどで度重なる敗戦を喫してしまう。しかし、試合に敗れたことでチーム力がさらに磨かれた面もあった。

「連覇をすると、どうしても自分たちが強いと勘違いをしてしまうもの。負けを経験したことで、勝ち続けていると忘れてしまいがちな『勝ちたい』という思いが皆に戻ってきた」とベテランの藤井新悟は言う。さらに言えば、チームには藤本不在で選手権を迎える覚悟もあった。

 そんなチームに応えるかのように、エースは昨年以上に成長した姿を見せた。決勝の千葉ホークス戦では、3枚のビッグマンに対し、決してひるまず強い気持ちで立ち向かおうとコートに入り、それを遂行した。

 試合後「ファーストコンタクトに強度があり、やりにくかったが、ファールをされても、自分のショットを続けることにこだわった」と話したように、屈強な相手のマークにも動じることなく、常に一本一本の成功率を意識しながらシュートを打っていく。それは、ドイツで習得したことのひとつなのだろう。常に70パーセントの高いアベレージを目指す藤本は、この試合で実に41得点を記録。優勝と同時に、11年連続となる得点王と3度目のMVPを手にした。

 ゴール下だけではない、どこからでも得点の取れるプレーヤーに成長した藤本は3Pシュートも安定性を増した。各チームから厳しいマークにあう分、パスもさらに効果的になった。インサイドのフリースペースにパスを出せば、ローポインターが走り込む。試合を重ねるごとに息の合うようになったコンビネーションは見事だった。

 決勝で見せた圧倒的な戦いぶり。「それはNO EXCUSEとの準決勝があったからこそ」と、藤本は振り返る。

 そのNO EXCUSEに所属する香西宏昭は、3年前からプロ選手としてドイツリーグに身を置いている。昨年から、日本選手権にも参戦出場するようになったが、初年度は合流が遅れたために連携がうまくいかず、チームは予選リーグで姿を消した。

 しかし、今回はチームも香西も全く違っていた。王者・宮城MAXとの準決勝では、香西の多彩なショットやゴール下の佐藤大輔が何度もオフェンスリバウンドを奪うなどゴールへの執着心を見せ、前半を同点で折り返す。後半も藤井のパスミスを誘おうとプレッシャーをかけ、王者を追い詰め続けたが、藤本と豊島のショットでリズムをつかんだ宮城MAXが69−63で接戦をものにした。

 試合後、香西は「ベスト4が僕らの現在地。立て直そうと思ったけれど、10点足りなかった」と敗戦の悔しさをにじませつつ、「NO EXCUSEは強くなった。僕がいない間に、個のスキルが成長していた」とチームメートを称えた。

「決して香西頼みになるのではなく、"ベーシック"を使って、自分たちがシュートに行けるときは行く。DMSカップや、のじぎく杯の優勝も経験し、作り上げてきたコンビネーションの部分がうまくいった」とは、及川晋平ヘッドコーチ。

 日本代表でも共有されている"ベーシック"は、及川HCが主宰するJキャンプや香西が通った米国のイリノイ大で重要視されているメソッドで、チームがそれを使えるようになるということは、香西が位置する世界レベルに近づくということだ。

 及川HCは、香西がドイツにいる間もチームの試合動画を送り、意見を出してもらうなど参加を促したという。こうしてコミュニケーションを築いてきたことで、細かな連携がうまくいき、王者を追い詰めるチームへと成長したのだ。

 もちろん香西自身の成長もある。"ベーシック"を実行し、周りの選手を使ってゲームをコントロールするスキルがさらに向上。日本にいるチームメートとのコンビネーションを作り上げた。この試合では、効果的な3Pシュートでチームを鼓舞した。

 宮城MAXの藤本は言う。

「NO EXCUSEからは、リードされていても『いつでも逆転できる』心の余裕が感じられた。今まで見た(香西)宏昭で一番強い姿。思い出すだけで鳥肌が立ちます」

 常に世界を見据えて海外で武者修行する藤本と香西。彼らの挑戦がそれぞれのチームの底上げとなり、日本選手権を盛り上げた。ドイツでは同じチームで高め合い、日本ではライバルチームで競い合う2人は、ナショナルチームでもともに高みを目指す。

 リオパラリンピック開幕まで4カ月を切った。さらにたくましさを増したダブルエース、そして日本チームの躍進に期待したい。

瀬長あすか●取材・文 text by Senaga Asuka