『カラー版 古代飛鳥を歩く (中公新書)』千田 稔 中央公論新社

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 この国の原点ともいえる場所----奈良県・飛鳥。

 6世紀末から8世紀初頭にかけて、列島の文化と政治の中枢があった飛鳥。現在もその地を訪れると、数多くの古墳や遺跡、寺院に出合うことができます。

 歴史地理学者の千田稔さんによる本書『古代飛鳥を歩く』では、飛鳥に未だ残る数々の歴史的痕跡を辿りながら、日本の歴史において飛鳥とはいったい何だったのか、76の章から考察を繰り広げていきます。

 飛鳥を知っていく上で、まず気になるのはその名前。なぜ"アスカ"という地名になったのか、その由来には主として2つの説があるそう。

 ひとつは古朝鮮語の"アンスク"(安宿)に語源を求める説。ふたつ目は、"ア(接頭語)+スカ(州処)"という、川(現在も明日香村を流れる飛鳥川のこと)の流れによってつくられた川州の風景から名付けられた地名であるという説。

"飛ぶ鳥の明日香"というように、"飛ぶ鳥の"は"明日香"の枕詞として使われますが、その背景には、川州を飛び交う水辺の鳥の姿があったのではないかと千田さんは思いを巡らせます。

 そんな飛鳥の地の東・南・西には低い山や丘陵が、北には遠く飛鳥を象徴する山・天の香具山を望むことができます。そしてこの天の香具山は、『万葉集』第1巻の2 首目で"大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 煙立ち立つ 海原は 鷗立ち立つ うまし国そ 蜻蛉島 大和の国は"(大和には多くの山があるが、とりわけ天の香具山に登って国見をすれば、国の原は煙が立ちのぼり、海には、カモメが飛び交い、この国はすばらしい国だ。大和の国は)と詠われています。

 この歌は推古天皇のあと即位した舒明天皇によって詠まれたもの。ここで詠われている香具山でなされたという国見。これは「天皇の眼による呪力を国家領土に施す儀式であった」(本書より)そうです。

 また、この香具山の土には霊力があるとも考えられていたとのこと。『住吉大社神代記』に、摂津の住吉大社の神を、香具山の埴土でつくった天平瓮で祀れば、天皇を傾けようとする謀略を退けられるとあることから、住吉大社には香具山の土を採る神事が伝わっているといいます。現在では香具山の近くの畝傍山の山頂において、この神事はなされているのだとか。

 三輪山や大和三山といった宗教的自然景観、そして桜井から飛鳥にかけての地域は"日本文化のハース(hearth 創造の中心地)"だという千田さん。その国家誕生の地の風景を本書と共に巡れば、日本そのものを考えるきっかけともなるかもしれません。