「誰でも使える量子コンピューター」IBMが公開する意味

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IBMは量子コンピューターを「誰でも使えるように」公開した。その安定的な性能が期待されるとともに、民間レヴェルでの開発が促進されることになる。

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量子計算はもっとも難解な計算方法である。それはグーグルや米航空宇宙局(NASA)といったハードコアな学者と組織の領域で、実験的で非常に複雑で、かつ実に分かりにくいテクノロジーだ。

しかし、そうした様相も変わるかもしれない。本日(5月4日・現地時間)IBMが公開したのは、誰もが5量子ビットコンピューターを使えるようなオンラインサーヴィスだ。

研究者たちは、ニューヨーク州のヨークタウンハイツの研究所でそのコンピューターを組み立てた。その機械には単純なソフトウエアインターフェイスを通して、ネット経由でかんたんにアクセスできる(ただし、あなたが量子計算の基礎を理解していれば、だが)。この新しいサーヴィスは一般ユーザーが使うようなものでは決してない。しかし「実際に使える」量子コンピューターをつくろうと懸命になっている多くの研究者にとっては、非常に重要な意味をもつ。

いわゆる量子コンピューターとは、〈1〉と〈0〉の領域を超えた計算を行うもので、今日使用されているコンピューターよりも飛躍的にパワフルだ。そして、IBMはその量子計算が世界中でできるように、力を尽くした。

そう、このサーヴィスはIBMが自社の量子コンピューターを誇示し、外部の人間によって検証され承認を得るためには重要な手段のひとつだ。そして、それは量子システムの不明瞭なる力学を扱おうとしたとき、特に重要さを帯びる。

しかし、アーヘン工科大学量子情報研究所の教授であり、量子計算の初期の開拓者の1人であるディヴィッド・ディヴィンセンツォは、このサーヴィスにはもっと広い可能性があるとしている。

「わたしは(これをきっかけに)一般の人々が量子コンピューターの働きについていろいろと学ぶようになると思う」と彼は言う。「それは、このサーヴィスのディヴェロッパーたちが考えもしないものとなるだろう」

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これは重要なことだ。なぜなら、研究者たちがこの種のマシンで目指しているのは「テクノロジーの新領域を拡張すること」にあるからだ。

そこにはDNA配列の理解から株式市場が上下するのを予知することまで、あらゆるものが含まれる。ある人は個々の分子がどのように相互作用を起こすかをシミュレーション化しようとしているし、ある人は量子コンピューターが機械学習の限界を広げることを望んでいる。

これは、グーグルやNASAが、その所有する1,000万ドルのD-Waveで探索していることだ。D-Waveは、ある状況下で量子的性質を見せるとされており、いささか物議を醸しているマシンだ。

今日のコンピューターは、ごく小さなトランジスターにデータを保管している。それぞれのトランジスターがもつのは、単一ビットの情報、すなわち〈1〉または〈0〉だ。

しかし、約30年前、科学者たちはその二元性を超えうる機械を提案した。量子力学の、魔術的な原理に従うシステムにデータを保管できるマシンの提案である。「量子ビット」はいわゆる重層原理によって、〈1〉または〈0〉というだけでなく、〈1〉と〈0〉を同時に保管できるようになった。

この論理をさらに進めよう。「2量子ビット」は、〈00〉、〈01〉、〈10〉、〈11〉の4つの値を同時に保管できる。そうやって量子ビットを増やし続けると、理論上は今日存在するどの機械よりもはるかにパワフルな機械を組み立てることができる。

「通常の論理では説明できないことがいろいろとある」と、IBMの量子計算のプロジェクトの監督を助けた前イェール大学研究者であったジェリー・チャウは言う。「量子計算と量子アルゴリズムは『どうやってそれを抑制できるか?』がすべてだ」

しかし、そういった超パワフルマシンは、いまだに存在しない。観察している量子ビットは不安定なもので、量子システムの状態を観察するとある状態から別の状態に変わり、一貫性をもたなくなる。〈0〉と〈1〉の両方をもはや保管しなくなり、従来のコンピューターのように、〈0〉または〈1〉のいずれかを保管するようになる。

これを抑制するにはさまざまな方法があるが、いずれの方法も問題を本質的には解決できていない。が、いくつかの方法には大きな希望をもてる。

IBMは、巨大な氷点下の「冷蔵庫」に超電導回路を入れて作動する量子コンピューターを組み立てた。5量子ビットの容量をもつマシンだが、いま、世界中にこのマシンを開放するにあたって、同社はそのパワーを50、さらにはおそらく100量子ビットにまで高めようと考えているようだ。

ウォータールー大学の量子計算研究所の教授であるデイヴィビッド・コーリーによると、こういったオンライン量子コンピューター(量子クラウドサーヴィスと言ってもいい)は、これまでに例のないことだという。こうしたサーヴィスの構築は、想像以上に難しいのだと、彼は説明する。「簡単にできることではない」「量子システムはとても繊細なものである」と、彼は言う。

そして、IBMはそれをうまくやってのけた、と彼はつけ加える。このサーヴィスの端末は驚くほど簡単なインターフェイスだ。「量子計算の初歩的知識をもつ学生であれば、このマシンとどのようにコミュニケーションをすればいいかを理解できる」とコーリー氏は言う。

コーリー氏はこの新しいサーヴィスを使って週末を過ごした。そして、彼を驚かせたのは、このシステムが高い一貫性をもつことだった。彼がテストを行うたびに、ほぼ同じ結果が得られたのである。

これまでの古いコンピュータであれば、それ自体は大したことではない。あなたのノートPCは一瞬にして数え切れないくらいの同じ結果を出せるだろう。しかし、可能性を捕らえるのがすべてである量子計算の世界では、一貫性は進歩の兆候である。このサーヴィスがより広く利用可能となったいま、進化はさらに深まるだろう。

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