リオデジャネイロ五輪代表選考のかかる体操のNHK杯は、五輪本番を見据え、演技価値点のDスコアが6種目合計で39.4点という難しい演技構成で臨んだ内村航平が、全種目でミスのない演技を見せ、合計93.350点の高得点で8連覇を決めた。

「自分の中ではつり輪の演技は満足できなかったけれど、この構成で試合をノーミスで通せたことはなかったので(よかった)」(内村)

 内村の完成度の高さに圧倒された大会だったが、もうひとつの注目は、昨年の世界選手権優勝でリオ五輪内定を決めていた内村に続く2枠目の代表争いだった。

 五輪本番の団体戦を戦うためには、種目ごとのスペシャリストも必要となるため、代表選手5名中3名は6月4〜5日の全日本種目別選手権で決定する予定になっている。

 今大会は、4月の全日本選手権の得点と合わせた個人総合得点の合計で、内村を除く1位の選手が代表の座を手にすることになっていた。

 その戦いの有力候補は、13年世界選手権個人総合2位の加藤凌平と14年世界選手権個人総合3位の田中佑典。そこに、これまでゆかと跳馬のスペシャリストとして世界選手権に出場していた白井健三が、4月の全日本で内村に次ぐ2位になって名乗りをあげていた。

 白井との持ち点の差は、加藤が0.3点で、田中は0.65点。その間には神本雄也と齊藤優佑が0.45点でいる展開だった。最初のゆかと次のあん馬を、全日本より得点を上げる好スタートを切った加藤に対し、白井は高得点を狙う最初のゆかでは4つ目のタンブリングの着地で膝をつきそうになってよろけ、全日本より低い点でスタート。そして次のあん馬では落下するミスが出て、持ち点との合計で加藤に1.1点差で逆転された。

「あん馬は練習をしてなかったからの失敗ではなく、調整の仕方がいけなかっただけなので悔しくはないです。ゆかは自分でもびっくりするようなミスだったけど、マットの反発にまだ合わせられなかったと思うから、ここでいい経験ができたと思っています」

 こう言って笑顔を見せる白井は「4種目目の跳馬は開き直ったというか、その前のつり輪が終わった時点でコーチとも『今日は狙いにいってもいいですか』と話をしていたので、その狙い通りにドンピシャでした」と言うように、跳馬では"シライ/キムミフン"と命名されている"伸身ユルチェンコ3回ひねり"を完璧に決めて15.550点を獲得。会場を沸かせたが、残り2種目を考えると、代表争いからは事実上の脱落となってしまった。

「今日は全日本の自分の演技を超えようと、ハードルを高くし過ぎたのがよくなかったですね。国内でこういう経験ができたのはよかったと思います。僕はゆかと跳馬で代表に入ればいいと思ってしまっていたところが今回の個人総合の結果につながったと思うので、来年からは『個人総合で勝負する』と言い聞かせてやっていきたいと思います」

 最後は順位を5位まで下げた白井は、明るい表情でこう話した。

 白井が脱落した代表争いは、最初の2種目で好スタートをした加藤に対して、田中もその2種目では差を広げられたとはいえ、つり輪が終わった時点では加藤に0.55点差で2番手になっていた。

 加藤は「(田中)佑典さんはコナミで一緒に練習をしているので調子もわかっていたし、最初の2種目であまり点差を開けなかったので、跳馬では"ロペス"を跳ばなければ点差は開かないと思った」と、"側転跳び4分の1ひねり、前方伸身宙返り2回半ひねり"に挑戦。着地ではイエローラインを踏んで減点されたが、これで田中との差を1.2点に広げた。

 その後の平行棒と鉄棒では、田中が15・950点と15・900点を出して猛追。平行棒で0.4点差まで詰められた加藤は、最後の鉄棒では全日本の得点15・000点を大きく上回る15・550点を出さなければいけない状況になった。

 そんなプレッシャーのかかる中でも加藤は、G難度のカッシーナを入れて着地もピタリと決める演技で15.600点を獲得。

「去年痛めた足の状態は万全ではなかったですが、演技をする前に計算して15.600点は必要だとわかっていたので、本当に開き直ってやりました」という加藤は、追い込まれた状態でも自分の演技がしっかりできる安定感を存分に発揮し、合計では田中を0.1点差で抑えて五輪代表を決めた。

 コナミの森泉貴博ヘッドコーチは「加藤の場合はここの個人総合で内村に次ぐ2位に入らなければ代表はないと思っていた。カッシーナは試合と練習では安定度が違っていてまだ安定していないですが、佑典の点数が出た時点でカッシーナを抜くことは彼の頭の中には入っていなかったと思う」と話す。

 加藤は、「つり輪が終わったあとは、もしかしたら逆転されるかもしれないという焦りも出てきていました。でも最後の鉄棒は焦りというよりも、開き直っていました」と振り返える。

 父親でコナミのコーチでもある裕之さんが「試合ではほとんど失敗したことがない」と語る"集中力の高さ"が彼を2度目の五輪代表にした原動力だ。

 敗れた田中は「持ち味を出せた内容のある試合だった」と、6月の全日本種目別での代表権獲得へ向けて前向きな表情を見せた。

 内村は「今回は最初の入りから五輪をイメージしてやっていました。リオの目標は団体の金メダルで、『自分の演技をすれば』という自信はあるので、それに向かってどういう練習をするかが必要だと思う。加藤には去年の世界選手権の時に、『来年はお前も全種目できるようにしておけ』と言っているので、何も言わなくてもわかると思う」と語った。

 加藤も「最後の鉄棒は『ここでしっかりできれば、リオでこういう場面になっても自分の演技ができるはず』という意識で臨んだ。今回は4年前とは違って、狙って取った五輪代表なので、しっかり気持ちを切り換えられると思う」と話す。

 そんなふたりに加え、今大会は田中や白井も着実に自分たちの持ち味を発揮した。6月の全日本種目別選手権では、残り3枠をかけてさらにハイレベルな戦いが見られるだろう。リオデジャネイロ五輪団体の金メダル獲得に向けて、男子体操は順調な歩みをたどっている。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi