海外メディアも注目する日本の「たんす預金」

先月熊本で起きた大きな地震。家屋が倒壊したり、土砂にまみれたりと多くの家族が財産である「家」を失うことになりました。しかし、震災で失うのは家だけではありません。

実は5年前の東日本大震災で、海外のメディアが注目したある事象があります。それは「たんす貯金」です。個人や会社が保有するたくさんの金庫が津波によって流されたことが報じられ、意外にも、日本ではまだ「たんす預金」をしている家庭が多いことが明るみに出ました。また、こうした「たんす預金」のお金は保有者の特定が難しいことから、善意によって届けられたとしても持ち主の元に戻る確率が低いという問題点も浮かび上がりました。

災害に備える意味でも、どのような形で、どのくらいの貯金しておくかということを改めて考えていく必要がありそうです。

金融資産の中央値は400万

では、日本の「貯蓄」事情を見てみましょう。

2015年の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、2人以上の家庭における金融資産保有/非保有世帯を合わせた場合の金融資産保有額の平均は1209万円。意外としっかりと貯蓄されているように思えますが、資産を多い順、少ない順に並べた時に真ん中に位置する「中央値」は400万円となっています。

この中央値400万円というのは2014年の調査から変わっていません。しかしながら、2014年の平均金融資産保有額は1182万円。2015年にはこれが27万円も増加していることになります。

一方、2015年の調査における、金融資産を保有している世帯のみの平均金融資産保有額は1819万円。これは前年の1753万円よりも66万円も増加しています。
 
これだけ見ると金融資産の平均保有額は「金融資産を保有している世帯」でばかり増えているように感じないでしょうか?
 

単身世帯の約50%が貯蓄ゼロ

実は、平均金融資産保有率が高くなる一方で、貯蓄がない世帯は増えているのです。
 
「家計の金融行動に関する世論調査」によると、2人以上の世帯で金融資産を保有していない世帯の割合はなんと30.9%。およそ3世帯に1世帯は将来に備えた貯蓄がゼロということになります。これは前年の30.4%に比べ0.5ポイントも上がっています。

年代別で見ると、20代の金融資産非保有率が最も高く、36.4%にも上ります。

さらに、単身世帯に目を向けてみると金融資産を持っていない世帯は前年の38.9%から大幅に上がり、全体の47.6%。つまり単身生活者の2人に1人が貯蓄なしで生活を送っているという事態。そして、こちらもやはり20代の若い世代で貯蓄を持っていない世帯が圧倒的に多いという結果が出ています。

しかし、実感として「3世帯に1世帯は貯蓄ゼロ」という数字はあまりにも多すぎる気がしないでしょうか?

調査によって大きく異なる“貯蓄”の定義

そこで別のデータを見てみましょう。政府の統計資料のうち、平成25(2013)年の「国民生活基礎調査」によれば貯蓄がないと答えた世帯は全体の16%。先ほどのデータと比べ、かなりの差があります。調査方法や調査対象の数、また調査年度の違いを考慮したとしても、これほどの差が生じるとは考え難いことです。

実は前述の「家計の金融行動に関する世論調査」では「金融資産」について「定期性預金・普通預金等の区分に拘らず、運用の為または将来に備えて蓄えている部分とする」としたうえで、「商・工業や農・林・漁業等の事業のために保有している金融資産」および「預貯金のうち日常的な出し入れ・引落しに備えている部分」などを除くとしています。

一方の「国民生活基礎調査」では「貯蓄」について、「貯蓄・借入金には家計用だけでなく個人営業のための分も含みます」としており、金融機関への預貯金に関して目的によって取り扱いを区別していないのです。

したがって、「家計の金融行動に関する世論調査」では、「たんす預金」をしている場合や、貯金用の口座を日常用の口座と分けずに使っている場合は、「金融資産を持っていない」と回答することになります。こういった理由から、数字に大きな差が出てしまったわけです。

貯蓄格差は「防災格差」につながる

「家計の金融行動に関する世論調査」だけを見て、単に「貯蓄がない世帯は30.9%」とするのは、いささか乱暴かもしれません。しかしながら、「将来のために備えている貯蓄」がない世帯が多いことは事実。

そして、すでに金融資産を持っていた一部の世帯が金融資産保有額の平均を底上げしているに過ぎず、20代や単身者では貯蓄ゼロ世帯が増えていることを、きちんと認識しなくてはなりません。

「家計の金融行動に関する世論調査」によると金融資産の保有目的として「病気や不時の災害の備え」と回答した割合が63.7%と、「老後の生活資金」の66.5%に次、2番目に高いという結果が出ています。地震などの災害に全ての人が備えることができていない現状をもっと重く受け止めるべきではないでしょうか。
 
(安仲ばん)