まだ発展途上、まだ未完成。リオデジャネイロ五輪にメダル奪還をかける日本代表のマーメイドたちは演技後、口々に課題を挙げた。日本ならではの同調性、確かな技術、手足のキレ、スピード、緩急、メリハリ......。9度目の五輪挑戦となる勝負師、井村雅代ヘッドコーチ(HC)は「できは良くない」と手厳しかった。いつも正直だ。

「まっ、いまの練習通りの姿です。この子たちは練習通りの力は出してくれる。だから、練習でちゃんと仕上げたらいいんだと思います。お陰さまで、今回はバラバラでしたけど、練習で課題を克服していけば、(リオ五輪で)戦えるという手応えはあります」

 1日閉幕のシンクロナイズドスイミングの日本選手権兼ジャパンオープン(東京辰巳国際水泳場)。日本代表「マーメイドジャパン」がチームもデュエット(乾友紀子、三井梨紗子)も順当勝ちしたが、最終日のフリールーティン(FR)決勝の得点は、いずれも予選を下回った。疲れゆえか、とくに後半の足技にばらつきが目立った。

 もちろん、チームは3月のリオ五輪予選から手直ししたプログラム、デュエットは新たなフリールーティンだったという事情はある。明らかに準備不足だった。不安を抱えての五輪前最後の実戦だったにちがいない。

 チームのFR決勝の直前、井村HCは選手たちにこう声をかけた。「とにかく、音楽を聴きなさい」と。コーチの演技前最後の言葉は選手たちの心に残るものだ。

 テーマは『AMATERASU〜輝く夜明け』、日本の神話「天照大神」をモチーフとした、いわば「日本再生」をアピールするものである。選手たちが音楽を意識したため、少しは落ち着いて泳ぐことができたようで、「足の上がりの同調性は昨日(FR予選)よりマシだったかなと思います」と井村HCは褒めた。

 独創性で勝負する新プログラムには、難度の高い6種類のリフトが含まれている。ハイライトは逆立ちをした中村麻衣を持ち上げて、高く跳ね上げる大技である。土台の選手がバランスよく力を加え、中村が体の軸をしっかり決めて、真上にくるくるひねりながら飛んで落ちなければならない。

 ここでは、ジャッジも観客もハッと目を見張ったことだろう。この日の中村のひねりは1回転半止まり。でも、ほぼ真っすぐ飛んだ。中村が「オリンピックにつながるリフトができたんじゃないかなと思います」と笑えば、井村HCも「この路線で攻められるんじゃないかな。(土台の)彼女たちはまっすぐ上げられたし、中村もまっすぐ受けるという感覚は得られたという、すごく大きな収穫があります」と手応えをつかんだ。

 メダルを失った屈辱の2012年ロンドン五輪のあと、14年、井村HCが日本代表に復帰した。長いときには1日12時間ともいわれる厳しい練習を積み重ね、選手たちはたくましくなってきた。世界の勢力図をいえば、ロシア、中国と続き、3番手を日本がウクライナと競っているところだろう。そのウクライナに3月のリオ五輪予選のチームで僅差ながら敗れた。そこで、プログラムを変えての挑戦である。

 得意の同調性とスピード感、技術を存分に生かす構成となっている。元中国雑技団の幹部を招き、日本が不得手だったリフトの高さと正確性を磨いてきた。選手個々も成長してきた。昨年のこの大会では3日間で全4種目、10回の演技をして、「しんどい」と泣いていたエース乾も変わった。

「昨年は全部、泳ぎ切れるかどうかという不安があったんですけど、世界選手権で全種目泳ぎ切れたのが自信になりました。体が万全の演技じゃなかったんですけど、"頑張る"という気持ちは出せたと思います」

 乾とデュエットを組む三井は「チームの成長」を強調する。

「ちょっとはステップアップできたかなと思います。ロンドンのように参加するだけのオリンピックではなく、リオはメダルを獲りにいくオリンピックとなる。課題はたくさん見つかりましたが、泳ぎ切ったという点では自信になりました」

 デュエットのFRのテーマは『風神・雷神(嵐のち晴れ)』である。出だしのスピード感、技の切れはあった。現在のチーム状況を天気に例えてもらえば、井村HCは苦笑しながらこう言った。

「晴れ間は見えているけど、雲は厚そうですね。ここは晴れるまで待つ場合じゃなくて、自分で風を吹かして(天気を)晴らさなければいけません」

 五輪本番まで約3カ月。メダル奪還をかけ、"のるかそるか"の大勝負がはじまる。メダルにかかる分厚い雲を吹き飛ばすためには、と聞けば、井村HCはこう、即答した。

「それはもう、練習あるのみです」

 ああ、ゾッとする。井村HCの頭にはメダル奪還の演技の完成図は描かれている。その習熟度を聞けば、「技術の完成度とか、スピンの足の切れとかなどでいったら、まだ2割5分くらい、25%です」と素っ気なかった。

 メダル奪還の演技まで、あと75%も足りないということか。五輪から逆算し、ある程度、井村HCの計算はできている。あとは選手たちが日々、猛練習で課題を克服し、それぞれのパーツをものにしていけるのかどうか。いわば時間との勝負となる。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu