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カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事が、州の最低賃金を全米最高水準に引き上げる法案に署名した。これにより同州の最低賃金は23年までに時給15ドルになる。日本の最低賃金と比べる議論が広がっているので、ご存じの方も多いと思う。

15ドル(約1,600円)なんて、アメリカの賃金はなんて高いんだと思うかもしれないが、そんなことはなくて2014年までカリフォルニア州は8ドルだった。「ファストフード店の店員は長時間働いても生活に十分な賃金を得られない」という声をきっかけに、最低賃金を引き上げる動きが広がり、2014年7月に9ドル、今年1月から10ドルになった。そして、これから段階的に15ドルへと引き上げられていく(来年に10.50ドルになる)。しばらく前まで8ドルだったものが、ここ数年で25%増、10年弱で倍増近くになる急速な引き上げなのだ。

15ドルは人々の暮らしに大きな影響を与えると思う。というのも、2014年の夏以降、特に昨年の後半からカリフォルニアでは値上げに踏み切る店が続出している。もちろん最低賃金だけが理由ではないが、長年”安くてうまい”だった店が軒並み値上げしてしまって通いにくくなっているのは、最低賃金引き上げの影響が大きい。値上げした店に理由を尋ねると「人件費がね…」と口を揃える。10ドルでこれだから、6〜7年後のこととはいえ、今のまま15ドルの時代がやってくるとはちょっと考えにくい。

3月にリリースされた最新のDuke CFO Global Business Outlookによると、最低賃金の上昇はまず他のコストの削減や値上げなどに吸収されるが、15ドルになるとビジネスはオートメーションなど労働力を縮小するテクノロジやアイディアに解決を求めるようになる。

以下は、最低賃金が8.75ドル/10ドル/15ドルに引き上げられたとして、それぞれの時点で以下のようなことを実行すると答えたCFO(629人が回答)の割合である。

・現在または将来の雇用削減:39%/47%/73%

・労働力を縮小するテクノロジへのシフト:31%/44%/72%

・値上げ:22%/43%/49%

15ドルが現実になったら、73%が雇用を減らし、72%がオートメーションなどを導入する。値上げも49%だが、それでは十分ではなく構造改革が不可欠と考えているのが明らかだ。以下は、8.75ドル/10ドル/15ドルへの最低賃金引き上げがビジネスにもたらすであろうプラス効果について同意したCFOの割合だ。

・生産性の向上:17%/35%/41%
・質の高い従業員の増加:17%/14%/33%

最低賃金が15ドルになったら従業員のやる気が増して生産性が向上する……と、このデータを受け止めるのは楽観的だ。生産性の高い従業員で運営できる精鋭体制を整えたビジネスのみが生き残れるというのがCFO達の実際の見通しだろう。

ファストフード店などのブラックな環境の改善から始まった最低賃金の引き上げだが、10ドル程度までだったらともかく、15ドルになると当初の目的とは別の方向に社会が変わっていく可能性が高い。たとえば、Amazonは未来への投資として全米各地にウエアハウスの建設を進め、それが新たな雇用を生み出しているが、同時に同社は5年後や10年後を見通してウエアハウスのオートメーション化を進めている。今はまだ景気が良好だが、景気の減速がオートメーションなどへの移行を加速させる。そうなると、これまであった雇用が減少し、生産性を生み出せる人材への需要が高まり、今日最低賃金で働いている人たちが行き場を失う可能性もある。失業率の上昇をいかに食い止めるか。その点を踏まえて10ドル程度にとどまるか、それとも新たな成長を思い描いて15ドルの世界に踏み込むか、行政の手腕が試される。

15ドル時代の可能性の例を一つ挙げると、サンフランシスコやロサンゼルスに店舗を増やしているEatsaというサラダボウルの専門店である。スマートフォン・アプリ(または店内に設置されたiPad)を使って注文し、ロッカーのようなボックスが並んだ店内で受け取る。行列に並んで待たされることなく、柔軟にカスタマイズして速やかに注文でき、価格も手頃だ。

もう一つ紹介すると、VCラウンドを着実に重ねている「Homemade」も面白い。一言で説明すると「食べ物のAirbnb」だ。家庭の主婦からシェフまであらゆる種類の料理人と、ホームメイドの料理を求める人たちを結びつけて急成長している。昨今のシリアルの売り上げ減の理由の一つが器を洗うのも面倒という人々の増加であるように、特に若い世代に料理を敬遠する層が拡大している。だからといって食に興味がないわけではなく、むしろヘルシーな食を求めている。そんなミレニアルズのライフスタイルや共働き家庭の増加をサポートするサービスである。

現実は複雑で、最低賃金15ドルがどのような変化を生み出すのかは分からないが、大きなインパクトになるのだけは確かである。それは混乱を生み出すかもしれないし、だからこそ私たちの生活を今よりも快適にする新たなサービスやソリューションが成長できるチャンスにもなる。

(Yoichi Yamashita)