■連載/ファイナンシャル・プランナー山崎俊輔の「フィンテック入門」

【フィンテック入門】フィンテック以前に普及したフィンテック、「モバイルバンキング」

1回目に続いて、2回目は「モバイルバンキング」について考えてみたいと思います。

■元祖フィンテックは「モバイルバンキング」?

「モバイルバンキング? そんなのフィンテックじゃないよ、ベンチャー企業がファンディングに成功した話は聞かないよ」と思う人もあるでしょう。しかし、実はフィンテック以前に普及した「元祖フィンテック」がモバイルバンキングなのです。ファイナンシャル・プランナー的には、モバイルバンキングを使いこなせずに、個人とフィンテックの関係を語ることはあり得ないと思っています。

■モバイルバンキングがどれだけ社会を便利にしたか

 今どきの銀行口座は基本的にモバイルバンキングがセットとなっています。新規口座開設の際にはモバイルバンキングの契約が必須になっていることがほとんどですし、支店網を持たないネット専業銀行であればモバイルバンキングは前提であり、メインの取引チャネルになります。

 このモバイルバンキング、すでになじみとなった当たり前の機能ですが、よくよく考えてみると、これほどITとインターネット技術が金融の利便性向上を図った事例はないことが分かります。

 何より、「店頭」取引という時間的制限を開放したのがモバイルバンキングです。かつては午前9時から午後3時までの営業時間内に店頭に足を運ばなければ、まともな銀行取引はできませんでした。今では口座開設すら店頭に足を運ぶ必要がなく、ネットや郵送のやりとりだけで完結します。時間的制約だけを考えてみても、モバイルバンキングの恩恵は明らかです。

 モバイルバンキングの主な取引範囲は「残高の照会(取引履歴の照会)」「振込指示」「定期預金等の預入」「その他取引(投資信託や個人向け国債の購入など)」です。

 このとき、振込手数料などについては、店頭窓口で手続きするよりもモバイルバンキングのほうが割安、ということが多く、私たちにとっても便利が経済的お得にもつながっていることが特徴です。これもフィンテック的に大事なポイントだと思います。

■モバイルバンキングは、スマホ×LTEでさらに便利に(かつ低コストで利用可能に)

 モバイルバンキングがさらに使い勝手を増したのは、スマホと高速無線通信(LTE)の普及です。最初は、モバイルバンキングといわず「オンラインバンキング」と呼んでいました。つまり自宅のパソコンで固定電話回線を用いて行うものでした。これでは店頭という場所の制限を開放してくれたといっても、自宅でなければ手続きができなかったわけです。それはそれですごいことだったわけですが、会社員の日中には手続きができません。

 ところが、2000年代に入って一気に普及したスマホとLTE回線が組み合わさることで、レスポンスは早く、どこでも利用できる銀行の支店が誕生したのと同じことが起きました。

 これこそ、まさにフィンテック、つまり「金融とITの融合によるメリット創出」といえます。「元祖フィンテック」としてのモバイルバンキングを私たちの生活にどう活用するか、少し考えてみましょう。

■振込手数料を無料にするとモバイルバンキングはより便利なものになる

 モバイルバンキングのサービスそのものは、すでにこなれている技術であって、各行に大きな違いがあるわけではありません。

 スマホ対応について、ブラウザーベースで対応するか、アプリで対応するか各行のアプローチに違いがあるくらいです(ときどき、アプリはただのショートカット機能しかない金融機関もあります)。

 むしろ、ファイナンシャル・プランナー目線で指摘すれば、ユーザー特典の違いがモバイルバンキングの価値を大きく左右するといえます。

 取引状況によって、時間外ATM手数料が無料となったり、コンビニATM利用料を一定回数無料とするのは銀行のサービス合戦の特徴ですが、これに「振込手数料」のサービスを加えている銀行がいくつかあります。

【フィンテック入門】フィンテック以前に普及したフィンテック、「モバイルバンキング」

 しかし、三菱東京UFJ銀行は預金残高等が500万円以上なければ他行振込手数料が無料にならないなど、一定のハードルを設けるのが一般的です。

 ところがいくつかの銀行では、手軽に得られる条件で他行振込手数料無料のチャンスがあります。

 たとえば、みずほ銀行は、投資信託や個人向け国債などのリスク性のある商品を保有するだけで「他行振込手数料月4回まで無料」になります(残高の条件なし)。

 新生銀行は毎月一定額(1万円以上)の積立投資信託を購入し続けることで、「他行振込手数料月5回まで無料」になります。

【フィンテック入門】フィンテック以前に普及したフィンテック、「モバイルバンキング」

 理屈でいえば、みずほ銀行と新生銀行の2口座で条件を達成し、どちらかを給与振込口座とすれば、2つの銀行間でお金を移動させつつ、家賃の振り込みなどを行えば、振込手数料はまったくかからないことになります。

 実際、私はそうしていますが、資金移動や振込を銀行に一度も行かずに電車の移動中などに完結できるのがまさにフィンテック時代のモバイルバンキングなのです。

■さらにVISAデビット対応なら完全キャッシュレスも可能に

 せっかく、モバイルバンキングでATMに行かずにお金の移動ができるようになったとしても、私たちは現金を持たずに生活するところまでなかなかいきません。

 ところが、モバイルバンキングをセットしてあるキャッシュカードをVISAデビットカード対応に切り替えておくと、「銀行預金口座からダイレクトに引き落とすクレジットカード」を持つことができます。

 多くのネットバンク〜ソニー銀行、ジャパンネット銀行、住信SBIネット銀行、楽天銀行など〜が対応済みのほか、りそな銀行など多くの銀行が対応しています。

【フィンテック入門】フィンテック以前に普及したフィンテック、「モバイルバンキング」

 VISAデビットカードは、銀行のカードがそのままクレジットカードに切り替わるため、現金不足のときに「ATMで現金を下ろしてお店にまた来て買い物する」を省略できる便利な仕組みです。

 また、普通預金残高からダイレクトにお金を引きますので、翌月まとめて請求がくるクレジットカードに焦ることもありません。現金での買い物感覚に近い仕組みです。

 今ではほとんどのお店がクレジットカードに対応していますので、対応している銀行に口座があるなら、VISAデビット対応カードに切り替えておくと、「完全キャッシュレス生活」も夢ではないでしょう。

■使い勝手とセキュリティのせめぎ合いの中、どう利用するか

 とはいえ、モバイルバンキングも課題はあります。常にセキュリティの問題を抱えている、ということです。

 多くのモバイルバンキングは、口座番号と暗証番号以外の要素を加味してセキュリティを高めています。

 しかし、スマホがいつでも持ち歩き手軽に使える端末である、ということは悪意あるものの攻撃にも弱い、ということです。

 ここでいう悪意はハッキングのような手口ばかりではありません。パスワードを覗き見(ショルダーハッキング)したうえで、スマホを盗むというような、原始的な手口にも注意が必要です。

 スマホを放置するとき、パスコードロック画面を設定しておき、推測しにくいものにしたり、指紋認証にしておくだけでも、モバイルバンキングのセキュリティは向上します。

 フィンテックの便利さが、お金のトラブルにならないよう気をつけたいものです。

 今回は「これがフィンテック?」というテーマでしたが、次回は「いかにもフィンテック」というテーマを取り上げます。

 ロボアドバイザーがあなたの資産運用を助言してくれる、というの未来像がフィンテックの典型例として語られますが、これは本当に頼れるものなのでしょうか? お楽しみに。

文/山崎俊輔

1972年生まれ。中央大学法律学部法律学科卒。AFP、1級DCプランナー、消費生活アドバイザー。企業年金研究所、FP総研を経て独立。商工会議所年金教育センター主任研究員、企業年金連合会調査役DC担当など歴任。近著に「お金が「貯まる人」と「なくなる人」の習慣」「誰でもできる確定拠出年金投資術」などがある。執筆、講演多数。Twitter: @yam_syun