『調律師、至高の音をつくる 知られざるピアノの世界 (朝日新書)』高木 裕 朝日新聞出版

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"本屋大賞2016"を受賞した、宮下奈都さんによる『羊と鋼の森』。若きピアノの調律師が成長していく過程を描いた、この小説作品の存在によって、美しい音色の背景にあるピアノ調律師の存在、そしてピアノの調律そのものに興味を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 そこで実際に、ピアノの調律師たちは現場でどのようなことをしているのか、さまざまなエピソードと共に、ピアノの調律に関して生じてくる数々の疑問に答えてくれる一冊が、郄木裕さんによる本書『調律師、至高の音をつくる』。普段なかなか知る機会も少ない、調律師の仕事を垣間みることができます。

「1台のピアノを100回調律するより、100台のピアノを体験していることが必要」(本書より)というほど、木、紙、フェルト、金属の集合体でつくられるピアノは、まるで生きている人間のように1台1台性格が異なるそう。

「大ホールでオーケストラと共演しても決して負けない絢爛たるパワーを持ったもの、バッハを弾いても華やかで艶っぽくなるもの、ジャズで本領を発揮するもの、ヴィンテージ特有の弦楽器のような木製のぬくもりを感じさせるもの、室内楽に向いているもの」(本書より)といったように、それぞれに性格が異なり、持ち込むホールの環境や演奏するピアニストによって、まったく異なる音色になるのだといいます。

 さらに、その1台のピアノも、温度・湿度に敏感に反応し刻々と変化。ピアノの弦は鉄製、弦を張ってあるフレームは鋳鉄製であり、弦は1本につき約90キログラム、ピアノ全体では20トン近くの張力で引っ張られているため、温度・湿度の変化で弦は伸縮。ホールの空調やスポットライトによっても、みるみるうちに調整が狂ってしまうのだといいます。

 ピアノ自体の性格を生かし、ホールの環境と調和させ、ピアニストの技術や表現力が発揮できるようベストな状態に持っていくために、なくてはならない存在である調律師。クラシックのコンサートでは、だれよりも早く会場に入り、コンサートの最後まで立ち会う調律師。
 その技術如何によってコンサートやレコーディングが成功するか失敗に終わるかが決まってしまうほど、非常に責任も重いため、生き残れる人も少ないそうです。しかし同時に、裏方冥利に尽きるほどのやり甲斐を感じたり、感動の瞬間を味わうことも。

 至高の音の背景にある、調律師たちの仕事を知れば、ひとつひとつのコンサートもより一層深く味わうことができるはずです。