4日、米大統領選の共和党候補指名争いは、不動産王ドナルド・トランプ氏の指名獲得が確実になった。トランプ氏は暴言を繰り返し、米大統領には似つかわしくないキャラクターとされるが、米国民は何故このような人物に熱狂するのか?写真はホワイトハウス。

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2016年5月4日、米大統領選の共和党候補指名争いは、不動産王ドナルド・トランプ氏の指名獲得が確実になった。トランプ氏は、「メキシコ国境に壁を作って移民を締め出せ」「イスラム教徒の入国を禁止せよ」「日本や中国を叩きのめす」などと暴言を繰り返している。米大統領には似つかわしくないキャラクターとされるが、米国民は何故このような人物に熱狂するのか?

『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』を刊行した森本あんり国際基督教大学教授は、米政治には転換期に「反知性主義」が登場する伝統があると指摘。トランプ人気は「米国内外での指導力に陰りが見える中で、何も変えられない政治エリートに対する大衆の反発の表れ」と分析した。

森本氏によると、古くは、ドル紙幣に肖像として使われ、今でも人気の高い19世紀前半のジャクソン大統領が「反知性主義」の代表格。戦後もアイゼンハワー大統領、レーガン大統領、ジョージ・ブッシュ大統領など、大衆の支持を得たいわば政治素人が、「主流派」の知的エリートを下して政治をリセットする歴史が繰り返されてきた。知性そのものではなく、知性と権力との結びつきへの反発や、知的特権階級への「異議申し立て」とも言える。また誰もが平等にゼロから出発して自分の力で成功する「アメリカン・ドリーム」への回帰と見ることもできる。

トランプ人気は「この世の成功は神の祝福の証し」という米国独特のキリスト教の論理にも裏打ちされている。(1)神は従う者を祝福する、(2)自分は成功している、(3)従って自分は神に認められている―という単純な「三段論法」に依拠している。それ故に自力で富と名声を築いたトランプ氏のような人物がキリスト教保守派の支持も得られている。キリスト教の伝道集会のような大統領予備選の形式も、トランプ氏への熱狂につながっている、と言う。

一方、民主党の大統領選びはヒラリー・クリントン候補が有力だが、サンダース氏の前に意外に苦戦。現代アメリカ政治が専門の渡辺将人北海道大学准教授によると、大統領選がトランプ氏とクリントン氏の争いになった場合、「アウトサイダー対エスタブリッシュ」の図式になり、トランプ氏が善戦する可能性があると言う。その背景として、夫のビル・クリントン大統領時代の北米自由貿易協定(NAFTA)や共和党政権下のイラク戦争など歴代政権の政策に対する、国民の反発が強く、「ヒラリー氏の豊富な実績と経験が裏目に出る」と見る。

米国政治を牛耳ってきたエスタブリッシュメントに対する大衆の反発は根強く、その象徴と見られがちな点もクリントン氏にとってはマイナス材料となっているようだ。

トランプ氏は外交でも経済でも「米国第一」の原則を掲げている。米国の利益にならない海外の米軍を縮小。日米安保条約は「不公平だ」として、在日米軍の駐留経費で日本の負担を大幅に増やさなければ撤収すると表明している。一方で中国、ロシアとの関係改善を唱え、外交安全保障政策の転換を志向、米国伝統の「一国主義」に回帰しているようだ。米国利益至上主義で内向きの考え方は、環太平洋連携協定(TPP)をはじめとする自由貿易協定を敵視する反グローバル主義や保護貿易主義へ向かう可能性が高い。

政治の素人だったジャクソン大統領は、19世紀の連邦国家形成期に諸改革に取り組み、成功した。映画俳優だったレーガン大統領は当初政策手腕を危惧する声も多かったが、優れたブレーンの声を聞き入れ、実績を残した。国際情勢が一段と複雑化し、米国経済が衰退している現代で、同様の成功は保証されない。

トランプ氏が本選で当選し大統領になれば世界最大の軍事大国の最高司令官になるが、軍と衝突する恐れもある。著名なブレーンもおらず、思いつきで過激発言を繰り返しているように見えるトランプ氏。「大統領になれば現実的な政策に転じる」と予想する声も一部にあるが、異端の大統領候補から目が離せない。(八牧浩行)