海の中を潜るには独特の呼吸法が必要(写真はイメージです)

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2013年のNHK朝ドラ「あまちゃん」ですっかり人気になった「海女さん」。現実には高齢者がとても多いのに、みんな活動的で若々しい。その秘密が潜水の仕事で心臓が強くなり、血管年齢が若いからという研究がまとまった。

国立産業技術総合研究所と米テキサス大学の合同チームが2016年4月19日に発表した。論文は米科学誌「American Journal of Physiology」の2016年5月号に掲載される。

漁村に住む人の血管は農村の人より若い

研究チームは、「海女さん」の本場である千葉県南房総市と三重県志摩市・鳥羽市に住む海女115人(平均年齢66歳)と、日頃からジョギングやウォーキングなどの運動習慣のある一般女性33人(同64歳)、運動習慣がない一般女性50人(同66歳)に協力してもらい、血管年齢の測定と肺機能のテストを行なった。

血管年齢は、動脈の壁の硬さから推定した。動脈は、老化とともに血管の壁が硬く、かつ厚くなり動脈硬化の原因になる。血管の壁が薄く、かつしなやかなほど若いから、硬さの指標で血管年齢がわかる。肺機能は、思いっきり息を吸い込んだ時の「努力肺活量」と、1秒間に息を思いっきり早く吐き出す速度の「1秒率」を測った。

その結果、面白いことがわかった。海女たちの血管年齢は実年齢より約11歳若かった。運動習慣のある女性は約8歳、運動習慣のない女性も6歳若かった。運動習慣がない女性が若かったことについては、漁村部の住民の動脈の壁は、農村部の住民よりやわらかいという先行研究があるという。

有酸素運動とは違うメカニズムが関係している

ところが、肺機能の結果では、「努力肺活量」は海女、運動習慣のある人、ない人の順で高かったが、「1秒率」では運動習慣のある人、ない人の順で高く、海女は一番低かった。普通なら肺活量が多いと、吐き出す速度も増すのだ。

研究チームは、「1秒率」の低さは海女が潜水から浮上する時に行なう「磯笛」と呼ばれる独特の呼吸法に関係していると推察している。海女は潜水中、心臓が1回の拍動で送り出す血液量が増えるため長く潜っていられる。その代わり、血液中に空気が多量に溶けこみ、浮上した時に一気に肺の空気を吐き出すと、血液中に気泡を発生し潜水病で失神する。そのため、「ピュ〜、ピュ〜」と口笛を吹くように細く息を吐き出す。

同研究所の菅原順・主任研究員は「ジョギングやウォーキングの有酸素運動をすると、血管年齢が若くなることは知られていますが、海女さんの場合は、これとは異なるメカニズムが関与していると考えられます。この解明は、心臓病や脳の病気の発症予防につながると思います」とコメントしている。