「自分が芸人だったということを隠しているわけではありませんが、誇れるキャリアになっていないので、あまり言ってないだけなんです(笑)」

そう語るのは、第2週までの最高視聴率23.6%と、好調なスタートを切ったNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の脚本を手がける西田征史氏(40歳)。彼には“異色の経歴”があった。

西田氏は1990年代半ばに2歳年上の佐野忠宏氏(現・コトブキツカサ)とお笑いコンビ「ピテカンバブー」を結成。当時西田氏は19歳の現役大学生。イケメン芸人で演劇風のコントが得意だった。

時代は『ボキャブラ天国』、通称“ボキャ天”ブーム真っ盛り。しかし、「ピテカンバブー」はその波に乗ることはできなかった。西田氏が振り返る。

「最初にテレビに出たのが、“生まれてきた赤ちゃんが大人だったら”というネタ。ポマードべったりつけた赤ちゃんが“お父さん!”と出てくる話。すみません、こうやって言うとつまらなさそうですが、それなりに評価はいただいたんですよ(笑)。

ネタは僕がファミレスにこもって書いていました。もともと物語性のある話で笑いを見せていくものが好き。逆に一発ギャグのようなものを作る才能はなかった」

有名芸人に勝ち、番組レギュラーを獲ったことも。それでも、“すべての瞬間に笑いを求められる”お笑い芸人に限界を感じたという。

「ある番組で急に司会者から『はい、じゃあ何か面白いこと言って』と言われて萎縮。それ以降、しゃべるのが怖くなりました。でも、そこで笑いをとるのが芸人、僕はそこまでの能力だったんです」

約5年の活動を経て、24歳のときコンビ解散。その後は物語を描く面白さに目覚めたが、生活は困窮した。

「バイトをやって年収80万円だったことも。30歳までに芽が出なければ、やめようと思っていました」

努力の甲斐あり、次第に西田脚本は業界の評判に。ドラマ『怪物くん』や『信長協奏曲』など話題作を手がけることになるのだ。

(週刊FLASH 2016年5月10日、17日号)