演奏中は耳栓装着のうえお楽しみください(イラスト・サカタルージ)

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「シャカシャカ、シャカシャカ♪」と電車の中でスマートフォンから漏れてくる音楽。周囲は不愉快だが、気持ちよく聞いている本人にとっても不愉快な運命が待っているかもしれない。

スマホで高い音量の音楽を聞きすぎた結果、難聴になる若者が急増しているのだ。

うるさい音楽で難聴になる若者が世界で11億人!

2015年2月27日、世界保健機関(WHO)が次のような声明を発表し、長時間、高い音量の音楽をスマホなどで聞くことに警鐘を鳴らした。

「世界の中・高所得国の12〜35歳の若者の約50%が携帯オーディオ機器から、また約40%がディスコなどの屋内施設で、安全でない音量の音楽を聞いています。このため聴覚にダメージを与え、世界で約11億人の若者が難聴になるリスクを抱えています。聴覚に安全ではないレベルとは、85デシベル以上の音を8時間聞いた場合、または100デシベル以上の音を15分間聞いた場合です。音量を下げるか、聞く時間を減らしましょう」

そして、「スマホ(携帯オーディオ機器)などで音楽を聞く場合は、1日1時間以内に控えてください」などの指針を示した。ちなみに、100デシベルとは「電車が通った時のガード下」、85デシベルとは「騒々しい工場の中」「カラオケ店内のスピーカーの正面」くらいの音量にあたる。

WHOが警告を発した背景には、世界的に難聴になる若者が急増していることがある。2013年2月に米国医師会雑誌「JAMA」に発表された報告によると、米国の10代の若者の約5人に1人、人数にすると約650万人が難聴か、その予備軍であるという。12年前の調査に比べ、3割増加した。スマホを長時間聞く「スマホ難聴」とともに、ロックコンサートで直接騒音を浴びる「ロック難聴」が増えたためだ。

ロック会場では耳栓をつけると急性難聴を防げる

日本にはまだ本格的な調査はないが、いくつかの耳鼻科医のウェブサイトをみると、「スマホ難聴」や「ロック難聴」がかなり増えているようだ。あるクリニックによると、年間の難聴患者数のなんと半数の49%が20代以下の若者だ。しかも男性が83%を占める。こんな例が紹介されている。

「24歳男性。右耳に『ワ〜ン』『ボ〜』とした音が聞こえ、反響する感じだといいます。また、両耳の中が詰まった感じで、圧迫感あり痛いといいます。勤務中以外の家にいる時や通勤中は、ずっとスマホで音楽を聞いているということでした」
「1日のうちに若い難聴の男性が3人来院されました。3人とも耳鳴りと耳閉感を訴えましたが、知り合いではなく、たまたま前日に当院の近くで行なわれた同じコンサートを聞いていました。何万人も入る施設に、大音響で行なわれたそうですから、かなりの難聴患者が出たことでしょう。うち1人は治療後も左耳が中々改善せず、耳鳴りの後遺症が残りました。座った席がステージに近く、左前方にスピーカーがあったとのことでした」

ロック会場での「耳鳴り」や「痛み」は「急性音響難聴」と呼ばれ、普通は帰宅して一晩眠れば治る。それが翌日以降も続くのは、内耳の中にある音を感知する「蝸牛」という器官に障害が起こっているからだ。人間は音を空気の振動(音波)で聞く。音の振動が鼓膜を動かし、それが耳小骨を伝わって内耳にある蝸牛をふるわせる。

すると、蝸牛の中の微細な毛がびっしりある感覚細胞が音波を感知するのだが、音が大きすぎると振動が強すぎて、蝸牛の血流を止めたり、感覚細胞を損傷させたりする。スマホで大音量の音を長い間聞き続けると、「ロック難聴」と同じダメージを内耳に与えてしまう。

では、どうすれば「スマホ難聴」や「ロック難聴」を防げるだろうか。専門医のウェブサイトでは、次のようにアドバイスする。

(1)スマホは連続1時間以上聞かない。1時間聞いたらヘッドホンイヤホンをはずし、5〜10分休む。

(2)ヘッドホン・イヤホンをつけていても外部の会話が聞こえる程度の音量にする。

(3)コンサート会場ではスピーカーのそばの席をとらない。

(4)音量が高すぎる場合は耳栓をつける。

耳栓については、2016年4月にオランダの大学がロック会場で耳栓をつけさせる実験結果を発表した。耳栓をつけなかった人は42%が急性の難聴になったが、耳栓をつけた人は8%しか急性難聴にならなかったという。耳栓をつけても音楽は楽しめるのだから、ぜひつけよう。