国際調査報道ジャーナリスト連合が公開しているパナマ文書のウェブページより

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 各国のトップや企業が税金のかからない「タックスヘイブン」(租税回避地)を利用し、租税回避行為を繰り返していた実態を白日の元に晒す「パナマ文書」の全貌が、5月10日に公開される。

 パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した「パナマ文書」は、南ドイツ新聞を通じて「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)の手に渡った。データ量にして2.6テラバイトという膨大な文書で、イギリスのキャメロン首相やロシアのプーチン大統領らの周辺人物らの名前も記載されており、世界中で大騒動となっている。

 一方、日本ではICIJに参加する共同通信と朝日新聞が分析を行っている。共同通信によれば、4月26日までに、日本在住者や日本企業が株主や役員として記載された回避地法人が少なくとも270に登ることが判明。そのなかには警備大手セコム、大手商社の丸紅、伊藤忠商事、またコーヒー飲料大手UCCグループ代表者の名前が確認されているという。

 ただ、菅義偉官房長官が早々に調査に否定的な見解を表明するなど、安倍政権には問題化を避けるような動きも目立つ。

 そんななか、朝日新聞が4月24日付で「電通・NHK、「パナマ文書」で風評被害 似た名が記載」なるタイトルの記事を出した。内容は、〈ネット上で「企業名が文書に載っている」「租税回避しているのではないか」などと根拠もなしに書き込まれる風評被害が相次いでいる〉として、広告業界最大手の電通とNHKが〈被害に遭っている〉とするものだ。

 記事によれば、「パナマ文書」のなかに「DENTSU SECURITIES INC」(イギリス領バージン諸島)や「NHK GLOBAL INC」(パナマ)という両社と類似した名称の会社が見つかった。これについて朝日が電通広報に問い合わせたところ、「徹底的に調査したが、当社の関連会社には存在しない」と説明。NHK広報も同様に「NHK及び関連団体と関係はない」と否定したという。

 だが、NHKや電通に持ち上がっている疑惑は、はたして、本当に朝日が書くように「風評被害」なのだろうか? 疑惑が向けられた当事者に「そんな関連会社は存在しない」と否定されただけで、「風評被害」と断定するのは、ちょっと追及が甘すぎるのではないか。

 とくに、電通に関して言えば、ICIJがパナマ文書とは別に、2013年に発表したタックスヘイブンに関する調査報道では、類似ではなく、本物の電通本社や実在するファンドの名前が挙がっていた。

 このICIJの調査報道は「オフショアリークス」と呼ばれるもの。オフショア(offshore)とは、金融用語で外国人(外国企業)を租税優遇している国や地域を指す。ICIJはこの「オフショアリークス」で、タックスヘイブンに存在する法人や役員・株主らの名前、住所を公開、データベース化したのだが、HP上にあるそのデータを検索すると、「DENTSU INC」という文字が出てくる。

 この「DENTSU INC」というのは電通の英語表記とまったく同じ、また、そこに記載されている「1-8-1 Higashi-shinbashi Minato-Ku, Tokyo 105-7001 JAPAN」という住所も電通の東京本社の所在地と完全に一致する。

 しかも、検証を進めていくと、「DENTSU INC」がどうタックスヘイブンに関わっていたのか、具体的な動きも浮かび上がってきた。

 この「オフショアリークス」には「SUHOM MOBILE INFORMATION CO., LIMITED」なる有限会社がリストアップされている。データでは"Offshore Entity"、つまり、タックスヘイブン区域の会社と表記されており、実際、この会社名をGoogleで検索すると、タックスヘイブンとして有名なイギリス領ケイマン諸島を所在地と表記している企業認可証らしき画像データも出てくる。

 これだけでも、租税回避行為のためのダミー会社のにおいがプンプンするが、この「SUHOM MOBILE」という会社の"Director"の項目に、なんと「DENTSU INC」に所属し、同社を登録住所にしている人物の名前が記載されていたのだ。

 この人物の名前は、N・M(データ上は実名)。電通に該当する人物がいないかチェックしてみると、電通が運営するウェブサイト「電通報」に、「北京電通 デジタルビジネス部 中国全国統括マネージャー」という肩書きをもつ同姓同名の人物が存在していた。

 さらに、電通は、このタックスヘイブンに設立された「SUHOM MOBILE」社に、ファンドを通じて出資までしていた。「SUHOM MOBILE」社のデータにある"Shareholder"(株主)という項目には、「Dentsu Asia Fund I, L.P.」なる、「電通」の名称が冠せられたファンドが出てくるのだ。そして、この「Dentsu Asia Fund I, L.P.」の所在地も、やはりケイマン諸島だった。

 電通が公表している子会社や関連会社のなかに、「Dentsu Asia Fund I, L.P.」は確認できないが、ファンド(投資事業組合)や社員につくらせた会社なら、公表されていない可能性は十分ある。

 つまり、こういうことではないのか。電通は、北京電通の幹部を取締役にして、タックスヘイブンで有名なケイマン諸島でダミー会社を設立し、同じくケイマン諸島に設立したファンドからお金を流し、租税回避行為を行っていた──。

 本サイトは早速、電通にこの疑惑をぶつけてみた。すると、電話取材に応じた広報担当者は「パナマ文書」に出てくる「DENTSU SECURITIES INC」との関係については完全に否定したが、「オフショアリークス」にあったタックスヘイブンの会社「SUHOM MOBILE」への投資についてはこう認めたのだ。

「10年ほど前に、ケイマン(諸島)に本社を置く企業へ、私どもがベンチャーファンドのようなもので事業投資をしたことがあります」

 しかし、一方で、広報担当者は租税回避行為については、こう否定した。

「これは純粋に事業としての投資であり、しかもマイナー投資です。すでにこの企業への投資は数年前に引き上げていますし、租税回避を目的としたものではまったくありません。何か問題になるようなものだとは思っておりません」

 だが、本サイトがその「マイナー投資」がどれほどの規模なのか、を訊いたところ、はっきりとした回答はえられなかった。また、純粋な投資なら、なぜわざわざタックスヘイブンであるケイマン諸島にファンドを設立したのか、など、不可解な点も多い。

 この問題については、まだまだ検証する必要があると思われるが、今後、マスコミがこれを大々的に取り上げる見込みは薄いだろう。実際、「オフショアリークス」が公開されたときも、そのなかに電通の名前があったことを大マスコミは一切報道していない。

 以前、本サイトでもお伝えした通り、日本の大企業のかなりの部分は、タックスヘイブンを巧妙に利用し「租税回避行為」を行っているという現実がある。「パナマ文書」の公開によって、国内企業の闇がどれだけ明らかになるのかは現時点では未知数だが、抜け穴がある限り、税の不平等性は加速する一方だ。マスコミがスポンサータブーなどを打ち破ってタックスヘイブンの問題を深く追及していくのか、本サイトはこれからもチェックしていくつもりだ。
(田部祥太)