人の気持ちがわからない、言外の意図を汲み取れない、異常にこだわりが強い……。書籍やテレビ番組の特集などによって、近年一気に知名度が上がった「アスペルガー症候群」。その男女比は3:1、4:1ともいわれ、男性の方がはるかに多いとされています。
 
しかし、アスペルガー症候群の方に焦点が当てられることはあっても、支える配偶者や家族の苦しみが取り上げられることはまずありません。パートナーが相手の感情に無関心な言動を繰り返すアスペルガー症候群であるがために、傷つけられうつ状態になってしまう、通称「カサンドラ」は存外多いのです。

そうしたカサンドラの人々の相談に乗り続け、自身もアスペルガーの夫を持つ、アスペルガー・アラウンド代表のSORAさんにお話を伺いました。

100人に1人はアスペルガー

 
SORAさん(以下、SORA):現在、100人に1人はアスペルガーだと言われています。これはかなり大きい数字ですよね。パートナーだけでなく、会社の上司や同僚にもアスペルガーの人がいる可能性はあるんです。
 
「妊婦の妻を顧みず、グイグイと自分だけ先に歩いていってしまう」「誰もがうらやむ額を稼いでいるのに、家のために全くお金を使ってくれない」など、夫の自己中心的な行動に悩む奥様などをはじめとして、のべ700人以上の方が相談に来ています。
 

「これ以上頑張れない……」カサンドラの声なき声

――アスペルガー・アラウンドは、アスペルガーを家族に持つ人をサポートする団体だと伺いました。
 
SORA:アスペルガー症候群のような発達障害の方をサポートする支援団体はたくさんあります。でも、その周囲の人へのフォローはほとんどなされていないんです。

アスペルガーについて学ぼうと本を読んだり講演会に行ったりしても、「アスペルガーは理解されずにつらいのだから、周囲の人は頑張って理解してあげましょう」と求められる。結果、カサンドラの人たちは「まだ頑張らないといけないの!?」と潰れてしまうんです。

「男ってそんなものよ」という言葉の暴力

――どういう方がご相談にいらっしゃいますか?
 
SORA:多くはカサンドラの女性です。パートナーがすでにアスペルガーと診断されて支援を受けている段階の方より、それ以前の段階で悩んでいる方がほとんどです。例えば、旦那さんは高収入でしっかりとした社会的地位もあるが、アスペルガー的言動に奥さんが一人で悩んでいるという状況です。

この段階にあるカサンドラの女性は、周囲に相談しても苦痛を理解してもらえず、「うちの夫もそうよ」「男ってそんなものよ」「あなたの方がおかしいんじゃないの?」と言われてしまうんですね。
 
でも、そうじゃない。自分を日々苦しめる違和感を「そんなの当たり前だ」と
切り捨てられるのは本当につらいんです。「みんな我慢してるのに、私だけ我慢が足らないのかな」と思い悩み、自尊心を傷つけられてしまいます。

「あるあるトーク」がカサンドラを癒す

 
――実際にどのようなサポートを受けられるのですか?
 
SORA:まず「しゃべりば」という場を設け、カサンドラの人同士で体験談を話してもらいます。

相談者の多くは、夫や彼氏が本当にアスペルガーなのか確信があるわけではないし、自分自身がどれだけ傷つけられているかもよくわかっていません。つまり、自分が置かれた状況を客観的に見るチャンスがなかったんです。

カサンドラは、自分の苦しみを理解してもらえないことから生まれます。だから、誰にも理解されない孤独感を共感してもらうことで癒すことがとても大切なんです。

「しゃべりば」では「アスペルガーあるある」がどんどん飛び出します。「そうよ、そうよ」「そうなのよね!」と相談者同士で盛り上がるうちに、「イヤなことはイヤと言っていいんだ」と、抑え込んでいた感情がちょっとずつ解放されていくんです。

 

会社は得意でも、家庭は苦手

 
――「アスペルガーあるある」で一番共感を得られる話題はありますか?
 
SORA:出産や子ども絡みが多いですね。アスペルガーの方にとって「家庭」というものは理解しがたいんです。会社のように「上司」と「部下」といった固定された役割の中で振る舞うのは比較的得意なのですが、家庭のように、「夫」と「父」という複数の役割を求められたり、子どもが生まれたり成長したりして求められる振る舞いが日々変化していく環境には対応できないのです。
 
例えば、結婚した時に「夫のお小遣いは5万円」と決めていたとします。ところが、子どもが生まれて出費が増えたので「お小遣いは次から3万円ね」と額を変更すると、頑として受け付けないんです。
 
家計を一緒に考えてくれないので、高収入世帯であるにもかかわらず、妻がひたすらパートをしている……という事例もあります。

 

社会的地位が高い方にもアスペルガーは多い

 
SORA:とはいえ、アスペルガーのパートナーには優れている面もあるんです。まず高収入の人が少なくありません。医師や弁護士のような職業についている人もいます。また「周囲の反応に影響されない」という特徴は、「流されない」「独創性があってカッコいい」という印象を周囲に与えます。

さらに「思ったことをそのまま口にする」という特徴は、「裏表がなくて誠実そうに見える」という印象と表裏一体ですし、普通の人なら緊張するような場面でも冷静沈着にふるまえるので、それが魅力的に映る場合もあります。

「自分の夫でなければ、面白い人なんだけど……」
 
――なるほど、「魅力」もあるんですね。
 
SORA:ただし、目の前のことに没頭してしまう上に、段取りが苦手なので、パートナーとして人生設計の大事な部分をなかなか相談できません。子どもが生まれたから「5年後に一軒家に越したいね」「大学進学の費用も貯めておかないとね」というふうにストーリーが組めないのです。

恋愛ならまだいいですが、結婚にはかなりの覚悟がいります。私も夫がアスペルガーなので、「この人、自分の夫でなければ面白いんだけど……」とよく考えていますね(笑)。

(小泉ちはる)