アメリカで拡大するジカ熱感染 shutterstock.com

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 米国のCDC(Center for Disease Control and Prevention)は、「ジカ熱は当初考えていたよりも危険だ」とコメントした。

 予想していたよりも、北限が広がっており、すでに30州に及んでいる。また、Science誌には、ジカ熱ウイルスが神経細胞に直接障害を与える可能性が示唆されていた。

アメリカではジカ熱制圧に2000億円を予算化!?

 妊娠初期に感染すると脳への影響があると言われていたが、研究結果から、妊娠中期―後期にかけて感染しても影響があること、性感染が起こることなどから、社会全体への影響が当初予想よりもはるかに大きいことが明らかになってきた。オバマ政権は、ジカ熱制圧に2000億円を投じるように議会に働きかけたが、共和党も追加措置が必要ならば、対応すべきと言っているようだ。

 2000億円と聞くと、ため息が出そうな予算だが、「Too little, too late」の対策では、感染が拡大して手がつけられなくなるリスクが高くなるので、火事をボヤのうちに消すような心積もりで臨まなければならない。

 対策が過剰措置であっても、過小措置で感染拡大を招くことと比較すれば、大したことはない。とにかく押さえ込むことに全力を投じるべきなのである。これがリスク管理のあり方だ。国内だけの問題だけでなく、国際的な問題である。中南米諸国への支援も含まれるので、この観点では、まだまだ、米国は世界的な保健所の役割を十分に担っている。

 しかし、このような考え方は、日本にはなじまない。「できる限り、少ない予算で頑張ってください」と精神論で対応しようとしがちだ。特に、Public Healthの概念が十分に理解されていない日本では、「最悪のシナリオを想定した対策」が苦手なのだ。

 テロ対策や感染症対策では、「最悪」を想定して、万全を尽くす方策を立てなければならない。この場合、何も起こらなかった、被害が最小限に済んだかどうかの評価はほぼ不可能だ。対策が不完全だと、問題が起こったり、感染が広がるので、不完全だったことが証明されるが、何も起こらないと完全な対策か、過剰な対策かは測りようがない。

 安保法案の議論でも、この最悪のシナリオを想像できない人たちが、不毛な議論を繰り返しているように思う。平和ボケするような環境にいることは、それだけ日本が恵まれている証拠だろう。しかし、共和党の予備選挙を眺めていれば、想定すべき課題は見えてくるはずだと思うのは、私だけか?

※『中村祐輔のシカゴ便り』(http://yusukenakamura.hatenablog.com/)2016/0412 より転載

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)
1977年大阪大学医学部卒業、大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、1984-1989年ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。1989-1994年(財)癌研究会癌研究所生化学部長。1994年東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。1995-2011年同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005-2010年理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月よりシカゴ大学医学部内科・外科教授 兼 個別化医療センター副センター長。