ホワイトハンズの代表理事・坂爪真吾氏の著書『セックスと障害者』(イースト新書)

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 乙武洋匡氏の不倫騒動で注目が集まった「障害者の性」の問題。

 以前、当サイト(http://healthpress.jp/2016/03/-tv.html)でも触れたように、乙武氏と親交がある社会学者の古市憲寿氏は「『不倫相手』がしていたことは、愛情表現としての実質上の介護に近いものだった」というコメントしているが――。

 そこで今回は、「障害者の性」に対してどのようなケアが行われているか、いま話題の「ホワイトハンズ」の活動を紹介したい。

単なる性欲の処理ではなく、障害者の自尊心のケアを

 「それでは、Aさんのお宅へ行って参りま〜す!」。看護師で女性ケアスタッフのBさん(28)の明るく快活な声が響く。今日は、身体障害者Aさん(46)に射精介助サービスを提供する日だ。Aさんは、幼少期に急性灰白髄炎(ポリオ)患ったため、下肢が動かない。

 Aさんのような身体障害者のために生理用品を交換したり、射精介助する介護サービスに取り組んでいるのは、一般社団法人ホワイトハンズhttp://www.whitehands.jp/(坂爪真吾・代表理事)だ。

 2008年4月、ホワイトハンズは、新潟市西区で女性ケアスタッフが男性の重度身体障害者の自宅を訪問し、射精を介助するサービスを日本で初めてスタート。2011年10月に一般社団法人化した。

 単なる性欲の処理ではなく、QOL(生活の質)の向上の視点から障害者の身体介護と性的支援を行いつつ、障害者の自尊心をケアすることに軸足を置いている。

 坂爪代表理事によれば、「ホワイトハンズ」は「無罪」を意味する。健常者も障害者も罪悪感を抱かず、安心して利用できる新しい性の公共を創るのがミッションだ。性の公共とは性を社会の視点で捉え、社会的な手段で解決すること。

 つまり、年齢、性別、職業、障害や病気の有無に関わらず、健常者も障害者も性の健康と権利を享受できる社会の実現をめざしている。

自分で射精できない障害者を「手助け」する介護サービス

 ホワイトハンズが行う射精介助は、性の尊厳、自立の保護、性機能の健康管理を実現するために、介護用手袋を着けた女性ケアスタッフが自力で射精できない男性障害者の射精を、文字通り「手助け」する介護サービスだ。

 対象者は、脳性麻痺の二次障害をはじめ、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、髄膜炎、関節リウマチ、筋ジストロフィーなどの筋萎縮・拘縮・身体麻痺、脊髄損傷・頸椎損傷・高次脳機能障害の身体障害、知的・発達・精神障害のために物理的に射精できない人たちだ。

 北海道から九州まで18都道府県の累計利用者はおよそ520人、平均年齢は43.4歳。7割以上が35〜59歳の男性だ。

 射精介助に携わる女性ケアスタッフは全国に約10人。看護師、看護学生、医療系大学生などが多い。女性ケアスタッフが使うのは、介護用手袋、タオル2枚、洗面器、お湯など訪問介護の陰部清拭と変わらない。

 ケアの手順は、まず陰部をバスタオルで覆う。お湯で絞ったタオルで陰部を清潔に清拭した後、ローションで陰部周辺を摩擦する。血行が良くなり、勃起を確認すればコンドームを装着し、射精介助に移る。射精までの所要時間は個人差があるものの、おおむね10〜15分。

 ズボンを脱ぐのが困難なときは、利用者の羞恥心を和らげ、腹部が冷えるのを防ぐためにズボンのチャックを開けた状態でケアする。利用料金は30分2800円。15分ごとに1500円が加算される。

 射精回数はケア時間内で1回が原則。交通費・移動費は実費だが、入会金や年会費はかからない。

 射精介助の効用は何か? 射精介助を定期的に続ければ、脳性麻痺の二次障害や加齢に伴う性機能の廃用症候群(寝たきり)の予防をはじめ、性的な活力の回復、射精不全に伴うストレスの抑制、精神状態の安定などが期待できる。

 射精介助は障害者のQOL(生活の質)の改善や自尊心の向上に欠かせない。

 ちなみに、ホワイトハンズでは女性障害者に対するケアは行ってはいない。というのも、これまで女性向けの性機能ケアサービスを開発するため、女性のケアモニターの募集を継続的に行ってきた。

 だが、女性障害者からの応募はほぼ皆無で、問い合わせ自体も数えるほどしか来ていないからだという。
目標はホワイトハンズの存在自体をなくすこと

 ホワイトハンズは、日々の射精介助サービスの他、さまざまな活動を展開している。

 たとえば、性に対する支援・介助の方法を正しく学ぶ講座「障害者の性」基礎研修、社会的な啓蒙の場となる「生と性のバリアフリーフォーラム」、「性労働の社会化」をテーマにしたトークイベント「セックスワーク・サミット」、性風俗と福祉をつなぐ「風俗福祉基礎研修」、ヌードデッサン会の「ららあーと」、性の専門職を育てる「臨床性護士検定」や「デリヘル検定」と多彩だ。

 性労働の専門誌『セックスワークジャーナル・ジャパン』『デリヘル六法』の発行、童貞・処女問題を明るくマジメに考える学校「ヴァージン・アカデミア」の運営も。
 
 昨年は、デリヘルの待機部屋で行う無料生活・法律相談事業の「風テラス」も始まっている。

 また、現場の声を行政に伝えるアドボカシー(政策提言)活動も熱心だ。たとえば、障害者権利条約が保障する「障害者の性と生殖の権利」項目を障害者福祉に携わる支援者や専門職の教育・研修課程に採択することを厚労省に要望している。

 身体介護と性サービスのガイドライン制定や、障害者福祉サービスの介護保険の適用もすでに要請ずみだ。

10年ぶり、30年ぶりに射精して歓喜

 これらの諸活動はすべて、性を社会の視点で捉え、社会的な手段で解決する性の公共の実現につながるアクションであることは明らかだ。したがって、ホワイトハンズが実践している射精介助は、障害者を全人間的に蘇生させる性的介護サービスともいえる。

 50代や60代で生まれて初めて射精したとか、10年ぶり、30年ぶりに射精したなどと歓喜する利用者も少なくないからだ。

 坂爪代表理事によれば、目標はホワイトハンズの存在自体をなくすこと、つまり射精介助をいつでも・どこでも・誰でも受けられるように社会制度化することだ。社会性も倫理性も安全基準もなく、性的な快楽だけを狙う性風俗とは、ゴールがまったく異なる。

 さらに坂爪代表理事は、著書『セックスと障害者』(イースト新書)の中で、障害者の性の健康と権利を尊重する社会を実現するためのガイドラインとして、「生と性のバリアフリー憲章」を提案している。

 「生と性のバリアフリー憲章」によると、障害者に性があるのは「当たり前」だ。障害者にも健常者と同じように射精・月経、恋愛・セックス、結婚・出産・育児の意思も能力も権利もある。

 性は、その人らしく生きるための自尊心の基盤、社会参加の原動力になる。障害者の性の問題は、支援者の性の問題であり、社会の性の問題そのものなのだ。

 つまるところ、障害者の性介護は、その人の人間関係や生活環境をどのように改善するかに尽きるのではないか? 

 適切な性教育と性の健康管理。性の尊厳と自立。生と性のバリアフリーの実現。射精介助は、その糸口になるかもしれない。
(文=編集部)