勝った。ついに勝った。日本のサンウルブズの待望の勝利である。選手たちは歓喜の輪を作り、スタンドのファンも狂喜乱舞。ノーサイド前から、主将の堀江翔太はもう泣いていた。長いあごひげが涙と汗でぬれる。

「歴史的勝利を日本でできて誇りに思います。ポジティブに、何でもポジティブに前に進もうと。バックスと(フォワードが)ひとつになったと思います」

 試合前、熊本地震による犠牲者に哀悼の意を示す黙とうを捧げた。選手たちは左腕に喪章となる黒色のテープを巻いて戦った。スタンドにはこう書かれた大きな横断幕もあった。<熊本・九州に勇気を>

 堀江主将は安堵の言葉を足した。

「この試合で、何か九州の人たちに勇気を与えたり、元気を与えたりすることができるのであれば、それはうれしいですね」

 ラグビーの世界最高峰リーグのスーパーラグビー(SR)。今季初参戦したサンウルブズだが、開幕戦から7連敗となっていた。特に先週の南アフリカでの試合は記録的な大敗(対チーターズ、17−92)を喫した。観客が約1万5千人。1か月ぶりの秩父宮ラグビー場は満員にならなかった。

 これ以上みっともない試合をすれば、ファンは逃げていく。もう後がない。そんな危機感を抱いての23日のジャガーズ戦だった。相手も今季から初参戦したとはいえ、昨年のワールドカップ(W杯)でベスト4入りしたアルゼンチン代表を12人も含んでいた。いわばアルゼンチン代表。

 サンウルブズは「サン(太陽)」と「ウルフ(狼)」を意味する。まさに崖っぷちに追い詰められたオオカミ軍団はプライドをかけて、体を張った。激しく前に出た。一番の勝因はスクラムである。個々のひたむきなプレーである。15人の団結である。

 戦略も当たった。その象徴的なシーンが終了直前の勝利を決定づけるトライである。敵陣ゴール前5mのスクラムだった。がちっと安定したスクラムから生きたボールを左に出す。スタンドオフ(SO)のトゥシ・ピシが内側(右側)に一度、フェイントをかけて走り、タックルを受けながら外側(左側)のセンター立川理道に浮かした。

 立川は「ピシがボールを持っていくというのが雰囲気で分かっていました」と述懐する。ボールをもらうと、鋭利極まるランでインゴールにダイビングトライした

「やっと勝てたこと。それも最後にトライができて、喜びも爆発できたというのが正直なところです」

 実は、この最後の一連のプレーはそのひとつ前のプレーの逆パターンだった。直前のスクラムからのライン展開ではSOピシが内側にボールを返し、ウイング笹倉康誉が大幅ゲインしていた。表と裏。相手との駆け引き。試合を通し、SOピシのゲームコントロールは絶妙だった。

 結局、36−28の逆転勝利である。ロックのリアキ・モリはこう、漏らした。

「まるでワールドカップみたいだ」

 つまり、劇的なW杯の南アフリカ戦の日本勝利と同じような試合だったといいたかったのだろう。正確にいえば、ちょっと展開は違うが、スタンドの盛り上がり、歴史的勝利という意味では似ている。

 チーム最年長、5月に38歳となるロック大野均も「歴史的勝利ですね」と無精ひげに包まれた顔をくしゃくしゃにした。

「あこがれていた舞台での初勝利です。そこに自分が立てるとは思っていなかった。でもそこにいて、若い選手と一緒に喜べるというのはうれしいですね」

 喜びでいえば、フロントロー陣の充実感はひとしおだった。1週前の試合ではスクラムで粉砕された。屈辱だった。が、しっかり修正した。この日のキーワードは「先手」と「結束」「我慢」である。相手より先にヒットする。ボールが投入される「ボールイン」の時も、相手より先にプッシュする。そして低く。8人がひとつの固まりとなって我慢する。

 左プロップの三上正貴は試合の3日前に第一子の女の子が誕生していた。試合後、病院の妻から携帯にメールが届いていた。テレビで試合を見ている赤ちゃんの画像付きで。<娘も見ているよ!>

 三上が照れる。

「まあ、女の子なんで、(勝利の女神で)勝利を呼び込んでくれたんですかね」

 右プロップの垣永真之介は25日にも最愛の女性と入籍する。試合後は競技場に早足で出て行って、その女性とハイタッチで喜びを分かち合った。垣永も幸せそうな笑顔を浮かべる。

「二重の喜び? いえいえ。でも、もちろん、うれしいです」

 サンウルブズはハードな日程の中、負け続けながらも、たくましくなってきた。「慣れ」、「積み重ね」である。フィジカル、フィットネス、そしてチーム内のコミュニケーション。この日の先発メンバーには海外出身者が8人並んだが、長期の遠征などを通じて、互いの意思疎通がとれてきた。つまり「ワンチーム」になってきた。

 試合後のロッカールーム。マーク・ハメットヘッドコーチ(HC)は缶ビールを一気に飲み干した。選手たちも、缶ビールを空け、歴史的勝利を祝った。

 ハメットHCはコーチボックスでは、めずらしく涙ぐんでいた。

「常にポジティブにやっている。できなかったことにフォーカスするのではなく、何ができるのか、その可能性をもっと高めていきたい。ハードワークをして、常に100%を試合に出す。チーム一丸となって進んでいくことが大事です」

 これで壁をひとつ、ぶち破った。ファンの胸をゆさぶった。離れかけたファンを再び、スタジアムに呼び込むことになるだろう。

 だが強豪相手の試合はつづく。新たな壁がつづく。サンウルブズはひと呼吸つき、GWには豪州のフォースを秩父宮に迎える。さらに個々のプレー、連係プレーの精度を高め、スクラム、ラインアウトを強固にしていかないとこのリーグを生き抜けない。

 勝利は大事だが、なんといっても2019年W杯に向けた若手の成長こそ、ポイントにおいてほしい。サンウルブズ参戦の趣旨は「日本代表の礎(いしずえ)造り」にある。若きオオカミたちにも試練と成長を。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu