今季最終戦の世界選手権から帰国し、CM出演しているスポンサーの新製品発表会に出席した浅田真央は、復帰シーズンを振り返り、次なる目標が2年後に迫る2018年平昌五輪になると宣言した。

「ソチ五輪のシーズンが終わった後、これからはアイスショーをプロスケーターとして滑るんだなと思っていたんですけど、1年間休養したことで、また選手に戻って復帰したいと思えた。私にとって休養した1年は大切な1年であり、休養しなければたぶん復帰もしなかったと思っています」

「強い覚悟で選手生活に戻ってきたので、いまは何があっても最後までやり切るという気持ちのほうが強い。(休養から復帰の今季まで)いろいろな思いはありましたけど、いまはそれも全部含めて次(の目標)に向かっています」

 1年間の休養を経て復帰シーズンを戦い抜いた浅田真央。ソチ五輪で6位に終わった後は、「現役引退」と「現役続行」という2つの気持ちの間で何度も行ったり来たりして揺れ動いたという。テレビ番組などでも「引退する気持ちに傾いていたことが数度あった」と告白しているが、あらためて今季の戦いぶりを振り返ると、あのまま引退しなかったことは正解だったといえるのではないだろうか。

 25歳になった元世界女王が、一気に世代交代が進んだ世界の女子フィギュア界でどこまでやれるのかは未知数だったが、一方ではまだやれるのではないかという期待も高まった。

 迎えたシーズン初戦のグランプリ(GP)シリーズ中国杯でいきなりの優勝。やはり、リンクから離れても国民的アイドルとして人気が衰えることのなかった彼女ならではの「何かを持っている」スター性を見せつけた。

 この日本選手GP最多勝利(15勝、ファイナル4勝を含む)から、右肩上がりに調子が上向くかと思いきや、その後は下降線をたどるような結果となった。それでもGP2戦目のNHK杯で表彰台を死守し、GPファイナルに進出したあたりは、その実力がまだ通用することを示したと言えるだろう。だがそのGPファイナルの結果は最下位に沈む。本格的に練習を始めてからわずか4カ月。心技体を完全に取り戻すには時間が足りなかった。

 試合に対する気持ちの持っていき方や練習の取り組み方、気持ちと体のバランスの調整、競技者としてのコンディションづくり......本来であればいま置かれている状態をしっかりと把握し、25歳の彼女に合ったやり方を模索することが必要だったはずだ。ところがシーズン初戦を制したことで、かえってさまざまなギャップが生じていたことを見逃したままとなり、確固たる自信を掴みきれなかった。それがシーズン中盤での失速につながったに違いない。

 一方で、根っからの「負けず嫌い」という浅田の戦いぶりはこれまでと変わらず、彼女なりのこだわりと芯の強さを見せつけてくれた。まだまだその実力は衰えておらず、逆に磨きがかった技術や表現も垣間見せた。

 来季からはもっと熾烈な戦いが待っている。今季シニアデビューを飾って世界女王にまでなった16歳のエフゲニア・メドベデワ(ロシア)ら伸び盛りの選手たちが加速度的に成長を遂げるだろうし、平昌五輪を目指す有望なジュニア勢が続々とシニアに転向してくるからだ。

 そんな若手勢力に対抗するためにはこれまでとは違った戦い方を強いられるはずであり、また新たな技術やさらなるレベルアップを図らなければ勝ち目はないだろう。それは、今季を戦った浅田自身が誰よりも分かっている。

「戻ってきてからは、競技のスポーツの部分の半面、芸術の部分もあって、何を表現したいか、どのような滑りをしたいか求めていたんですけど、その一方で、選手として戻ってきたからには結果も順位も求められてくると思うし、自分もそれを求めてやっていかないといけないんだな、と。

 それに、ジャンプの技術が世界的に高くなっているので、私もジャンプの技術をもっともっと高くなっていかないといけないんだなと思いました。(復帰シーズンを戦って)私自身も強く、もっともっと進化したいと思えたので、まずは1年1年進化していけるように、その先に平昌五輪という舞台が待っていてくれたらうれしいなと思います」

 浅田が進化するためには、本人が語るようにジャンプ技術を高めなければならないことは確かだ。では、まず何から取り組めばいいのか。優先順位の1番目は、やはり浅田の代名詞であり最大の武器でもあるトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)をさらに磨きをかけて安定感のあるジャンプにすることだろう。

 それが決して不可能なことでないのは、今季を見ていても分かった。休養の前後のトリプルアクセルを比べると、ジャンプの質がまったく違っており、キレのある軽やかなジャンプに変貌を遂げていたからだ。浅田にとってトリプルアクセルはもはや特別なジャンプでもなく、跳ばなければいけないジャンプでもない。そんな固定概念を払拭したことで、気持ちに余裕が生まれ、力みのないジャンプに生まれ変わったのだという。

 先日の世界選手権で予定していた演技構成の基礎点を合計すると、浅田はショートプログラム(SP)で34.51点、フリーでは68.80点となる。同様にSP3位、フリー1位で世界選手権を初制覇したメドベデワの基礎点を計算すると、SPが33.10点、フリーは62.33点といずれも浅田よりも低い点数になる。もちろん、実際は予定通りのジャンプ構成を完璧に跳べずに基礎点が削られ、さらにGOE(出来栄え点)の加減によって得点が決まるわけだが、基礎点だけをみれば浅田の底力はまだまだ侮れないということになるのではないだろうか。

 その原動力が、浅田の調子のバロメーターでもあるトリプルアクセルとなれば、とことんこの大技を磨き上げることが今後の活躍のカギを握ることになるのは間違いない。「来季は勝ちにこだわるシーズンにする」と公言した浅田。現役女子ではまだ数人しか跳ぶことができない最強の武器、トリプルアクセルを制御して、さらに3回転の連続ジャンプの種類を増やすことができれば、メダル争いの一角を担う存在に十分になれるだろう。

 来季は平昌五輪のプレシーズンだ。浅田が3度目の五輪を狙い、代表になるためにはジャッジに対して健在ぶりをアピールしなければならない。残り少ない競技生活の有終の美を飾るためにも、本気度100%で臨まなければならないシーズンになりそうだ。

「やっぱり本当にフィギュアスケーターとして選手として競技できるのは、あと数年だと思うので、最後は自分がやり切った、復帰してよかったな、スケート人生よかったなと、笑顔で終われるような選手生活にしたいなと思います。5歳からスケートを始めて、10歳の頃からオリンピックというすごく大きな舞台を夢見てやってきました。選手としてやる以上、私自身もオリンピックという最高の舞台にもう一度、行きたいという思いが強いですし、それが私の最終目標であり、夢です。だから、正夢になればもっといいですね」

 成長は尽きないし、まだまだ伸びしろはある。手応えを掴んだ浅田の来季に向けた道のりに、希望の光が輝き始めた。

辛仁夏●文 text by Synn Yinha