顕微鏡を使って撮影された「アート」

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これらの写真は、なんだか生物の教科書に出てくるものとは一味違う。科学としてではなく「アート」として顕微鏡越しに写真を撮り続けた、写真家カール・シュトゥリューヴェ。その美しい独特の世界観に思わず引き込まれる作品展示会が現在ニューヨークで開催されている。

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2/15珪藻(Actinoptychus heliopelta)|1928
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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3/15円錐形の馬尿酸の結晶|1927
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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4/15珪藻(Triceratium favus)|1930
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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5/15アカタテハチョウの羽|1928
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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6/15チョウの吻(クロスキバホウジャク)|1928
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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7/15フィナーレ(異タイトルはEnd Time)|1959
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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8/15昆虫の気管|1936
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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9/15ゴキブリの胃袋|1928
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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10/15リード線圧延機|1952
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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11/15成熟したチョウの卵巣|1927
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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12/15プランクトン 上:ステリオネラ属コロニー 下:ボルボックス属 和名オオヒゲマワリのコロニー|1952
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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13/15淡水で生息する藻|1928
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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14/15四角い形をした珪藻 |1929
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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15/15オオイカリナマコ|1952
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

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ドイツ人写真家カール・シュトゥリューヴェ(1898 - 1988 ※ 諸説あり)が撮影したのは、珪藻や蝶の羽、カタツムリの舌、クジラのひげなど、すべて顕微鏡を通して撮影された接写だ。

ただ顕微鏡を通して拡大されただけなのに、シュトゥリューヴェの手にかかると馴染みあるものも一変する。顕微鏡を通した撮影自体は、シュトゥリューヴェが初めて行った手法ではないが、1920年代において、シュトゥリューヴェは「科学のため」ではなく「アートのために」撮影をした、ごく初期の人物の1人だ。

通常、顕微鏡を覗き込むと円形に見えるが、シュトゥリューヴェは切り抜いた紙を顕微鏡内に挿入し、画角が長方形になるようにした。「それは、科学としての捉え方と、アートとしての写真の見方を区別するためでした」と、シュトゥリューヴェ作品展覧会キュレーターを務めるアナイス・フェイユは言う。

作品展覧会「カール・シュトゥリューヴェ:小宇宙」では、アーカイヴ作品から50以上ものモノクロ写真を展示されている。アートと科学が魅惑的に融合した作品たちだ。

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カール・シュトゥリューヴェ
PHOTOGRAPH COURTESY OF STEVEN KASHER GALLERY, NEW YORK

シュトゥリューヴェは独学で写真を学び、グラフィックデザイナーとして、人生の大半をドイツ・ビーレフェルトで活動した。

第二次世界大戦が終わりに近づいたころ、シュトゥリューヴェのスタジオに爆弾が落ち、彼の写真の大半が失われた。だが戦争が終わり、その後、彼のキャリアが花開くことになる。彼は1955年にアメリカとヨーロッパで個展を開き、『Formen des Mikrokosmos』(小宇宙のかたち)という本を出版した。

シュトゥリューヴェは1926年、初めて顕微鏡写真を撮影した。顕微鏡の接眼レンズに直接(カメラの)レンズをあてるというシンプルな手法だった。彼が顕微鏡で撮影した珍しい生き物たちは、あるバイオ系の会社から入手したという。カメラと顕微鏡のセットアップに慣れてくると、彼は露出時間を変えながらさまざま形の違う珪藻を1枚の写真に仕立て上げた。シュトゥリューヴェは通常写真家が行うのと同様に、照明と鏡を用いてちょうどよい光量に調節した。

シュトゥリューヴェは(科学者ではなく)明らかに「デザイナー」である。彼が撮影した抽象的な形に、そのシュトゥリューヴェの視点を垣間見ることができる。しかしラボノートをつける科学者のように、シュトゥリューヴェも極めて細部まで記録を欠かさなかった。顕微鏡写真それぞれに、彼の手によって露光時間や倍率、撮影した生物種が記されている。

生物好きの方なら、シュトゥリューヴェの写真からドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルを思い浮かべるかもしれない。19世紀の後半、ヘッケルは海水のしずくを顕微鏡越しに覗き、目に映ったものを描きとめた。幻想的な色や形の生き物の世界が出現し、それらの描画は20世紀初期の画家や建築家に影響を与えたという。

「シュトゥリューヴェが実際にヘッケルの描画からインスピレーションを得たかどうかはわからない」とフェイユは言う。シュトゥリューヴェがもしヘッケルからインスピレーションを受けていないとしたなら、特に影響を受けていないと思われるが、こうして2人の作品が収束するということは、科学とアートがごく自然に交わりオーヴァーラップするものだということを示している。

シュトゥリューヴェが顕微鏡写真を撮影し始めたころは、写実主義に対して抽象主義が反発していた時代である。「シュトゥリューヴェは相反すると思われた2つの主義が通じていたという事実を示しているのです。だから、彼は抽象的な“科学実験写真家”と称されたり、ドキュメンタリー写真家と呼ばれたり。誰も彼がどの分野に属するか、わからなかったのです」とフェイユは言う。

フェイユがキュレーターを務める今回の作品展覧会では、シュトゥリューヴェは単に「写真家」とされている。

カール・シュトゥリューヴェ:小宇宙」は4月15日から6月4日まで、ニューヨークのスティーヴン・カッシャー・ギャラリーで開催されている。