中国ではゾンビ企業が労働争議の中心になっています」こう語るのは香港に拠点を置く非政府機関(NGO)で、中国本土の労働運動の調査機関「中国労工通信(CLB)」代表の韓東方氏(53)だ。写真は黒竜江省の炭鉱労働者のデモ。

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「中国ではゾンビ企業が労働争議の中心になっています」
こう語るのは香港に拠点を置く非政府機関(NGO)で、中国本土の労働運動の調査機関「中国労工通信(CLB)」代表の韓東方氏(53)だ。

韓代表は1963年生まれの53歳。もともと北京市の鉄道労働者だったが、1989年春の民主化要求デモで、学生らの「北京市大学自治連合会」と共闘するため「北京労働者自治連合会」を結成。1949年の新中国建国後、労働者による自発的な団体は同連合会が初めてだっただけに、ポーランドの自主労組「連帯」の創始者であるレフ・ワレサ氏(元大統領)になぞらえられ、「中国のレフ・ワレサ」と大きな反響を呼んだ。

しかし、1989年6月4日の天安門事件後、当局の指名手配を受け逮捕、投獄され、獄中で肺結核を患い、治療のため、釈放され米国で療養。肺結核が完治後の93年8月、中国広東省に密入国し逮捕されたが、当時は英国領だった香港に追放され、そのまま香港にとどまり、97年には香港の市民権を取得している。

韓代表は香港でCLBを創設し、中国内でのかつての人脈を活用して労働者ネットワークを構築し、情報を収集。自らが立ち上げた中国の労働運動専門サイト「中国労工通信」で、中国の労働者のデモやストライキに関する情報を逐一伝えており、その情報の正確さには定評がある。

韓氏によると、最近の最も大きなデモは黒竜江省双鴨山市の国有炭鉱「双鴨山砿業集団」の労働者とその家族ら数万人による「給料未払いデモ」だ。
同集団は2014年から給料の未払いが発生。今年3月までの半年間は完全に支払いがストップ。すでに倒産していてもおかしくないのだが、国有企業ということもあり、地元政府が補助金を支給し、何とか存続している状態だ。

赤字垂れ流しで、利益も生まない企業のことを中国では「ゾンビ企業」と呼んでいる。ゾンビとは死体がよみがえった幽霊で、香港映画で有名なキョンシーを指す。ゾンビ企業も「亡霊のような企業」で、韓氏によると、その典型が同集団だ。

双鴨山市では昨年来、デモが多発している。このため、3月に北京で開催中だった全国人民代表大会で、記者が黒竜江省の陸昊省長に質問したが、陸氏は「給料の未払いなど一銭もない」と言い放ったのだ。
この発言がネット上で伝えられると、同集団の労働者らの怒りが爆発。「陸昊よ、ぬけぬけとでたらめを言うな」「共産党は我々の金を返せ」などとの横断幕を掲げた数万人の労働者らが大規模なデモに打って出て警官隊と衝突。事態を重く見た党中央が地元政府に指示して、一時金として2カ月分の給料を支払うことで労働者側と合意し、いまは平穏を取り戻している。

中国政府の統計では昨年1月から9月までで1万1007件の労働争議が中国全土で起きており、韓氏の指摘する通り、その大半は同集団のようなゾンビ企業が舞台になっている。

とはいえ、倒産させれば、多くの失業者が出て大きな騒動に発展することは明らかなだけに、当局が一時金を支払うことで、ゾンビ企業はしぶとく生き延びていくという悪循環が続いているのである。

◆筆者プロフィール:相馬勝
1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。