著書「帝国の慰安婦」で元慰安婦の名誉を傷つけたとして、在宅起訴された韓国世宗大学の朴裕河教授の裁判がソウル東部地裁で続いている。裁判の行方によっては韓国の民主主義の「成熟度」が問われそうだ。イメージ写真。

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2016年4月23日、著書「帝国の慰安婦」で元慰安婦の名誉を傷つけたとして、名誉毀損(きそん)罪で在宅起訴された韓国世宗大学の朴裕河(パク・ユハ)教授の裁判がソウル東部地裁で続いている。朴教授は無罪を主張する。「学問の自由」に公権力は踏み込めるのか。裁判では韓国の民主主義の「成熟度」も問われている。

著書で朴氏は、元慰安婦の証言集などを基に慰安婦について「自発的に行った売春婦」「奴隷的であっても、基本的には日本兵と『同志』的関係にあった」などと記述。「慰安婦問題は、日本の帝国主義や植民地支配に起因する」との見解を示した。

これに対し、元慰安婦らが「侮辱だ」と反発し、14年6月に刑事告訴。検察当局は昨年11月、朴氏の在宅起訴に踏み切った。主な起訴内容は▽「売春」などの表現は元慰安婦の人格、名誉を著しく毀損し、学問の自由を逸脱した▽「日本軍人と同志的関係にあった者もいた」という記述は虚偽である―の2点だ。

今年1月の初公判で朴氏側は「問題が長い間解決されていない中、新しい見方で解決策を模索しようとしたもので、名誉毀損(きそん)には当たらない」「虚偽の事実はなく、元慰安婦の女性らの名誉を傷つける意図もなかった」などと起訴事実を否認して全面的に争う構えを示した。

18日の公判でも「帝国の慰安婦」は日本の行動を批判する目的で、公益のために書いた本であるため名誉毀損には当たらず、「検察は前後の文章の脈絡を無視し、一部の表現だけを根拠に起訴した」として、改めて無罪を主張。韓国メディアによると、争点の整理などが行われ、朴氏が著書で慰安婦動員の強制性を否定したのか、「売春」や「同志的関係」といった表現が名誉毀損に当たるのかなどを今後の裁判の争点にすることになったという。

さらに、朴氏側は初公判以降、本の中身について広く一般の判断を仰ぎたいとして、日本の裁判員裁判に似た「国民参与裁判」の適用を地裁に申請している。無作為に選ばれた20歳以上の国民が「陪審員」として裁判に参加し、有罪、無罪の「評決」を出し、裁判官に勧告する制度で、有罪の場合は量刑も討議する。評決には拘束力はないが、裁判官はこれを参考に判決を出す。

裁判の行方は予断を許さないが、ソウル東部地裁は初公判前、朴氏を対し元慰安婦らが起こした損害賠償訴訟で、著書の一部表現が元慰安婦らの名誉を傷つけたとして、計9千万ウォン(約870万円)の支払いを命じた。朴氏は判決を不服として控訴したが、状況は不利に動いているようにも見える。

在宅起訴には韓国内外で懸念する声が強い。日米の学者や作家、ジャーナリストらは「言論・出版の自由や学問・芸術の自由が侵されつつあるのを憂慮する」との抗議声明を発表。賛同人には慰安婦問題をめぐる官房長官談話を1993年に出した河野洋平・元衆院議長や、95年に戦後50年の首相談話を発表した村山富市・元首相らも名を連ねている。(編集/日向)