米国で蔓延する「オピオイド系鎮痛剤の中毒」

写真拡大

米国では、慢性痛の治療に使われるオピオイド系の鎮痛剤が乱用されており、中毒状態になっている者は190万人。死亡者は1999年から2014年までで16万5,000人に上るとされる。

「米国で蔓延する「オピオイド系鎮痛剤の中毒」」の写真・リンク付きの記事はこちら

オピオイド系と呼ばれる鎮痛剤には驚くほどの常習性がある。米国では鎮痛剤の使用および乱用が蔓延状態であり、米国政府の試算によれば、2013年にはおよそ190万人の米国人がこうした鎮痛剤の依存症だったという。そこでアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は2016年3月中旬、医師が鎮痛剤の処方を管理するための新しいガイドライン(PDF)を公開した。

オピオイド系鎮痛剤に関しては以前から、「薬物治療」と「薬物中毒」の境界が曖昧だ。そして規制当局は、両者のバランスを取ろうとして苦労してきた。

オピオイド系鎮痛剤はもともと、植物のケシ(Opium poppy)からつくられた。ケシの実から採集されるアヘン(Opium)が、古来から麻薬として使われていたのだ。紀元前3400年ころの古代シュメール人たちもケシを栽培しており、「喜びをもたらす植物」と呼ばれていた。

20世紀はじめの米国では、アヘン中毒が問題になっていた。1908年にはセオドア・ルーズベルト大統領がアヘン中毒に対処する「アヘン・コミッショナー」を初めて任命したが、当時の米国では400人にひとりがアヘン中毒であり、そのうち2/3は女性だったという。1914年のアヘン規制法により、上流階級の白人女性でアヘン中毒になる人数は減少したが、非合法の利用は減ることはなかった。その後も政府は規制の努力を続け、1924年、1951年、1970年にも、(ほかの麻薬も含めた)規制法が成立した。

しかしその一方で、製薬会社はアヘンからさまざまな鎮痛剤(オピオイド系鎮痛剤)を開発していった。1804年にはモルヒネ、1832年にはコデインが作成され、1874年には、モルヒネからヘロインもつくられた(最初は鎮咳薬として販売されたが、注射器投与により強力な麻薬作用が生じることが判明し、厳しく規制されることになった)。その後、アヘンに含まれるアルカロイドからオキシコドンが合成されたほか、ヴァイコディン(コデインから合成されたヒドロコドンとアセトアミノフェンを配合したもの)やパーコセット(オキシコドン・アセトアミノフェン・パラセタモールを複合的に配合したもの)などの各種オピオイド系鎮痛剤がつくられていった(米国では処方薬として購入できるオピオイド系鎮痛剤が、日本では違法薬剤であることも多い。たとえばオキシコドンは2015年6月、トヨタ自動車の女性常務役員が麻薬取締法違反容疑で逮捕された原因となった)。

RELATED

処方鎮痛剤は20世紀中頃まで、爆発的に利用が増えることはなかった。だが1990年、『Scientific American』誌が掲載した「The Tragedy of Needless Pain」(不必要な痛みによる悲劇)と題する記事が注目を集め、製薬業界にパラダイム・シフトを引き起こした。この記事は、多くの米国人が、昔のケガや最近行った手術や慢性病の誤診のために不必要な痛みに苛まれていると主張するものだった。さらにこの記事の執筆者は、モルヒネの処方が中毒を引き起こすという不安に製薬業界が過剰反応していると述べたのだ。

その結果、慢性痛に対してオピオイド系鎮痛剤が処方されることが広まり始めた。CDCの試算では、10人に1人の米国人が慢性痛を治療しているという。だが、慢性痛というのは実に曖昧な言葉だ。イライラさせられる程度の痛みであれ、ひどく辛い痛みであれ、痛みの感覚が半年以上続くことと定義されている。医者は苦痛を最小限にすることを期待され、鎮痛剤としてはオピオイド系の能力は極めて高い。ただし、副作用も強い。薬物規制の歴史に詳しいレンセラー工科大学のナンシー・キャンベル教授はオピオイド系鎮痛剤について、「治療的な処方と危険な処方の差がごくわずかなのです」と述べる。

ただし「現在は、オピオイド系鎮痛剤が危険なレヴェルで広まりすぎたことが理解されてきています」とも、キャンベル教授は述べる。米国では1999年から2014年までの間に、16万5,000人が処方鎮痛剤のために亡くなっている(オピオイド系鎮痛剤は薬物依存になりやすく、米国では2000年以降にヘロインを乱用した者の75パーセントが、処方薬のオピオイド系鎮痛剤の乱用から始まったとされている)。

CDCによる最新のガイドラインは、処方される鎮痛剤の量を減らすことが目的だ。実際、ガイドラインの最初の項目は、可能であれば鎮痛剤を使わずに慢性痛を治療することを勧める内容となっている。その他の推奨事項や確認事項は、治療目標の設定、害やリスクの検討、3カ月ごとの評価といった内容で、現状に楔を打ち込むことを目指している。

ただしキャンベル教授によれば、この問題に気づいている医師のほとんどは、ガイドラインが更新される前から、すでに治療を中止し始めてきたという。CDCのガイドラインは聞き流されてしまうだろうと言いたいわけではないが、このメッセージにもっと早く耳を傾けることができたはずの医師たちも、おそらく多かったはずだ。