仕事の“先送りスパイラル”から脱出する方法
「やらなければ……」と思いながら、エンジンがかからない。期限が迫り、焦ってミスも増える。「次こそは……」と決意も新たにしたはずが、気づけば、また振り出しに戻る。そんな“先送りスパイラル”を脱するにはどうすべきか。

 今回は、戦国いちの“かぶき者”と称された前田慶次郎の生涯を描いた『一夢庵風流記』(隆慶一郎著/新潮文庫)からヒントを探りたい。本作は、週刊少年ジャンプで連載されていた原哲夫の漫画作品『花の慶次 -雲のかなたに-』の原作小説。ゲームやパチンコ台にもなっており、漫画のキャラ“慶次”としてご記憶の方もいるだろう。

◆「罠があれば噛み破る。それだけのことだ」

 主人公・慶次郎は、上杉景勝の家臣である直江兼続と深い親交を結んでいた。上杉家が佐渡攻めを行った際も助っ人に駆けつけている。罠を疑い、敵城を攻めあぐねる兼続に、慶次郎は苛立つ。「罠があれば噛み破る。それだけのことだ」と断ずる。そして猛然と城を攻撃し、敵軍を壊滅した。

 慶次郎に“先送り”を指摘された兼続は即座に「判っています」と答えていた。しかし、動かない。失敗の不安に駆られると、人は途端に身動きがとれなくなる。対策を講じるには、強引にでもアクションを起こす必要がある。仮に想像通り“罠”があったとしても、存在が明らかになれば、慶次郎の言うように“噛み破る”なり、回避するなり、いくらでも対抗策はある。

◆「滅びたものは美しいが、滅びるものは無残でしょう」

 豊臣秀吉の命令で朝鮮に派遣された慶次郎。現地で外交僧として活躍する日本人僧侶・玄蘇和尚を訪ねる。慶次郎は朝鮮国の印象を問われ、「滅びの美しさに酔っている」と答える。さらに「滅びたものは美しいが、滅びるものは無残でしょう」と続け、和尚を圧倒する。

 源次郎が感じた“酔い”はビジネスの場面にも生じうる。先送りを繰り返す不甲斐ない自分に酔っていないか。既に滅びたものは容易に美化できる。だが、滅びゆくものに美化は許されない。なのに、無理やり美化しようとする姿こそが、無残なのだ。

◆「つまるところは我を捨てよ」

 戦国武将・前田利家の妻である、まつのセリフ。前田利家の死後、まつは息子・利長に、自分を人質として家康に差し出すように言う。息子は驚き、拒むが、「侍は家を立てるが第一」「つまるところは我を捨てよ」と説得。結果、まつは家康の人質となり、“加賀百万石”は守られた。

 先送りの背景には、まつが言う「我」が潜んでいる。「他の業務で忙しい」「担当者の応対が悪く連絡しづらい」「そもそも仕事量が多すぎる」など、事情を挙げればキリがない。だが、実のところ、「我」――自分の都合を優先しているだけ。担当案件を首尾良く成功に導くことが最優先。優先順位がつけられれば、初動もおのずと早くなる。

 誰しも、先送りで痛い目を見た経験が一度や二度はあるはずだ。しかし、失敗の記憶は薄れやすい。むしろ、重要なのは成功体験を重ねることだ。先回りすれば、仕事の精度は上がり、ミスのリカバリーも容易になる。その恩恵を味わい尽くすことが、先送り脱出の鍵となるのだ。

<文/島影真奈美>
―【仕事に効く時代小説】『一夢庵風流記』(隆慶一郎著/新潮文庫)―

<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。