先頃、腹話術師・いっこく堂(52)が、自宅の廊下で失神して倒れ、救急搬送されるという事件が起きた。診断結果は、くも膜下出血。幸い命に別状はなかったが、後日、いっこく堂は「迷走神経反射」によって外傷性のくも膜下出血を起こしていたことが分かっている。
 迷走神経反射とはあまり聞いたことのない病名だが、実は誰にでも起こり得ることなのだという。
 東京都立多摩総合医療センター総合内科の外来担当医に聞いた。
 「交感神経と副交感神経からなる自律神経は、どちらも複数の神経の総称で、迷走神経というのは副交感神経の一つです。ストレス時に働く交感神経と対をなし、心拍数や血圧を下げたり、消化を促したりする働きがある。通常は、どちらかが過剰にならないようにバランスを取っているのですが、それが崩れて迷走神経が過剰に興奮すると、一時的な血圧低下によって脳への血流が悪くなり、失神するのです」

 この迷走神経反射は診断名こそ難しいが、メカニズムは、低血圧の人が朝礼などで倒れる起立性低血圧と同じだ。特に上(収縮期)の血圧が100mmHgより低い中年以降の人に起こりやすいが、それだけではないという。
 「共通点として挙げられるのは、強いストレスにさらされた状態。ただし、一口にストレスと言っても状況は様々です。残業や寝不足を重ねた結果、疲労が積もり積もって朝の通勤ラッシュで座れず、立ちっ放しになることが引き金になることもある。また、トイレでふと立ち上がろうとした時や、朝ベッドから起きようとして倒れる人もいます。さらに採血後にフラッとして汗が出たり、吐き気がしたりしますが、それがひどい場合にも発症する。症状は脳血流の低下の度合いによって左右され、重症化すると失神になります」(同)

 いっこく堂は普段、酒を飲まないものの、その日は梅酒を(コップに)2〜3センチ飲んだため、少し気持ちが悪くなったという。
 「下戸の人にとって飲酒はストレスです。それでいてアルコールの作用で血管が拡張され、血圧が下がりやすい上に、飲酒による脱水も重なります。今回のケースは、飲酒によって引き起こされた可能性は十分あり得ます」(健康ジャーナリスト)

 そもそも失神とは、血圧の異常低下などにより、脳全体の血流が減ることで引き起こされる、一時的な意識障害のこと。多くは危険性の低い失神だが、中には命にかかわる病気が潜んでいることもある。
 東邦大学医療センター大森病院・循環器センターの外来担当医が説明する。
 「失神は脳への血流が6〜8秒途絶えたり、収縮期血圧が60mmHgに低下したり、脳への酸素供給量が20%低下するだけで起こります。その原因は、(1)起立性低血圧による失神、(2)心血官性失神、(3)反射性失神に大別できます」

 (1)は、パーキンソン病や糖尿病、脊推損傷、尿毒素にともなうもの、抗うつ剤、血管拡張剤などのくすりによるもの、がんなど消化管からの出血や下痢・おう吐に伴うものが含まれる。(2)は、激しい運動中に起こる大動脈弁狭窄症のほか、肺塞栓症、くも膜下出血などで発症する。
 もちろん(1)(2)のように失神の背景にあるこうした病気は危ないが、厄介なのはやはり日常動作で起きる(3)の反射性失神だ。
 (3)はさらに三つに分かれ、一つ目が感情ストレスが引き金となる血管迷走神経反射失神。二つ目に、くしゃみなどで引き起こす状況失神、三つめが頸動脈洞過敏症だ。
 「大量の飲酒後に起きる排尿失神は状況失禁に含まれます。頸動脈洞は首の付け根にある血圧と脈拍数をコントロールするセンサーで、圧迫すれば脈が遅くなる。ただし、過敏症の人は髭をそるのに首を曲げたり、ネクタイを強く締めたりしただけで失神することもあるのです」(大学病院関係者)