画材と音で、瞬間に描かれた「生」:「Sound & City」出演の画家・中山晃子は美しさを、色彩とサウンドと科学でつくりたい

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TEDxHaneda や、数々のステージでAlive Paintingという唯一無二のパフォーマンスを行う画家、中山晃子。さまざまな絵の具と音によって変わりつづける美しさを描き観客の心に触れる彼女が語る、瞬間に描かれるべき「生」とは。「Sound & City」での中山の登場は、4月28日(木)19:20〜、アークヒルズ カラヤン広場にて。無料。

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これほどまでに流動的で質感的な絵画がいままであっただろうか。岩絵の具や金属など、さまざまなマテリアルを自在に操り、その場に現われた「絵」を、そのままカメラで撮影して観客にプロジェクションするAlive Painting。アークヒルズにて開催される「Sound & City」で4/28(木)の19時20分からカラヤン広場特設ステージに出演する中山晃子は、Alive Paintingによる自らの作品は「絵」だと言う。一方で中山は、ソロパフォーマンスでは自ら音も演奏する。彼女が、色彩とサウンドによって表現する 「絵」とはいったい何なのだろう。その創作の意図と試みを訊いた。

「SOUND & CITY」、4/28(木)〜29(金)開催

詳細は、随時更新される特設サイトにて! 有料となるアークヒルズカフェ内のプログラム、及びワークショップのチケットはすべてこちらのPeatixページから購入いただけます。

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もともと静物を描くのは得意だった

──もともと大学で絵画を専攻していた中山さんが、いま取り組まれているAlive Paintingをはじめた経緯を教えてください。

わたしは関係性を表現することに興味がありました。色彩は関係性で成り立っています。赤は白より赤いし、白は赤より白い。異なる2つのものを同じところにもってくることで相互の関係性を表現できる。

小さいとき、雑木林とショッピングモールが隣り合わせにあるような地域に住んでいました。そういった地域は人工物と自然のコントラストが強く、自然物が人工物の向こう側から迫ってくるくらい強烈だった。例えば、タンポポなどの植物の茎が緑と赤でできていることにとても興味があって、小学校のときに美術の授業で、 それを描いてみたことがありました。

色鉛筆で片側から赤、もう反対から緑で塗っていって、できた絵を見たときに、赤と緑が混じっている部分が、本物の茎よりも生々しくなったような気がしたんです。液体が通っている生きている状態を描き切って、何かを掴んだという感覚があったというか。それが、絵がおもしろいと感じた原体験のひとつです。

もともと、セミの抜け殻みたいな時間が止まっている対象を、細密に細密に描くことは得意でした。だからこそ絵を進路として選ぶことになったのですが、デッサンや油絵という技法と自分の性分との差異に、限界も感じていました。

茎を描いたときのように、血の通った状態の美しさを描きたい!と思って、大学でいろいろな表現を試しました。完成しない状態を完成させるために方法を探しているという感じです。例えば、絵の具の噴水をつくっていたこともありましたね。

そうしてだんだんとかたちになっていったAlive Paintingは、絵の具などのさまざまな画材を流動状態であつかう手法です。液体も色彩と同じで、異なるものを同じ場に出会わせると、それらの関係性がうまれる。画材を固着化しないことで、いろいろな色や液体が混じりあって、反発しあって、何かが変化する瞬間のギュっとした美しさを描こうとしています。

──Alive Paintingのときにつかう液体には、何かこだわりがありますか?

むかし、Drink Paintingというのをやってみたことがありました。飲み物や調味料をつかってグラスのなかに絵を描いて、最後にはショットとして飲むという実験的な試みでした。強めの炭酸の泡のあいだに色つきの濃いシロップを潜りこませるとか、牛乳の上にラー油をたらしてみるとか(笑)。

ただ食べ物だと、「見立て」にならないってことに気づいたんです。牛乳は見ている人にとって牛乳に見える。牛乳が牛乳から離れなかった。牛乳という情報が強すぎて、そこに別の情報を宿らせることはできない。一方で画材は描くために生まれた存在なので何物も演じきれて、見ている人が自由に感情を託せることに気がつきました。それ以来、食べ物以外の液体で描いています。

AKIKO NAKAYAMA|中山晃子
画家。液体から固体までさまざまな材料を相互に反応させて絵を描く「Alive Painting」というパフォーマンスを行う。科学的、物理的な法則に基づくあらゆる現象や、現れる色彩を、生物や関係性のメタファーとして作品の中に生き生きと描く。ソロでは音を「透明な絵の具」として扱い、絵を描くことによって空間や感情に触れる。近年では TEDxHaneda、MultipleTap EURO tour にも出演。

SLIDE SHOW

1/9取材した日にライヴで使われた円錐型の金属と鉄球。

2/9昨日購入したという鉛の粒も準備されていた。

3/9絵の具が垂れることが多いため、機材には美しいストライプが描かれている。

4/9絵の具の下に敷く、さまざまな板。

5/9絵に水を加えるための霧吹きは、年季を感じさせる。

6/9中山が持ち込んだ絵の具コレクション。ライヴ前には事前に選定を行うという。

7/9中山自身の口から絵に空気を吹き込む管。これで絵の上に泡がつくり出される。

8/9さまざまな画材を切り取り、絵に配置するためのハサミ。

9/9機材を運搬するのに中山が使用している袋。

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音は、さまざまな質感がある透明な色

──4月末に開催されるSound & Cityでは、ソロでのパフォーマンスでは音も自分でつくられますね。中山さんはどうして音をつくってみようと思ったのですか?

基本的につかみ所がないものをつかむために、いつも表現の技法を探しています。何年かAlive Paintingをやってきて、視覚だと触れられない部分がありました。逆にいえば、音だと触れられる部分が増えるから、2年前に思い立ってやってみようと 思ったんです。だから自分としては鉛筆と紙でデッサンをするような意識で、音をつかうようになりました。

──音でないと触れられない部分とは、どんな部分なのでしょう?

音は透明ですよね。透明じゃないと入っていけない部分があると思うんです。視覚よりも、音は物理的に鑑賞している人に働き掛けることができる。

思春期のときに、UKロックのDOVESというグループを聴くと、なぜか心が落ち着くような気がしていました。心のなかに舞い上がった埃を、音が水滴になってキャッチしてゆくような感覚です。最近それを聴きなおしたら、ヴォーカルの声が絶妙な帯域だからだってことに気づいたんです。もちろん、個人の体験レヴェルの感覚でしかないのですが…。

それで一年ほど前に、Pure Dataというプログラミング言語の存在を教えてもらい、同時に何個かのある周波数を組み合わせて、音の震えをつくってみたんです。絵の具を混ぜるみたいに、この周波数同士だと大きく揺らぐとか、小さく波打つとか…。音のいろいろな質感を使いわけながら、自分の感覚をもとに構成をしています。

同じ周波数でも、色のように、組み合わせの関係性で景色が全然変わるので、パフォーマンスのなかで音と絵で同時に描いていく感じですね。次第にパフォーマンス中に、絵の展開を変えたいから音の質感を変えてみるとか、視覚への影響も楽しみながら、音を選ぶようになりました。

音楽によって創造力が刺激されてきた経験や、透明だからこそ頭のなかに描かれる形があること、その効果を信じて音をつかっています。

中山のソロパフォーマンス。手元で描きだされた絵がプロジェクションにより、壮大なシーンを描きだす。

Alive Paintingが行われる機材。板を傾けることで液体を交わらせることも可能だ。

絶対に揺るがない美しさを描きだす

──パフォーマンス中に何を意識していますか?

液体が液体に沁みていく樹形や、泡が必ず球を目指すとか、そういった、物理的な法則や性質に恐怖と感動があります。その性質を引き出すための状況を整えることを意識しています。描く意思とは関係のない、普遍的で絶対に揺るがない美しさを、1本線を引くことで発見したい。

一方で、絵に依存した物語という側面もあります。ときに抽象画といわれるのですが、どこまでも具体的な絵でもある。科学や物理をそのままに描きつつ、そのまま見立てにしてゆく。例えば、粉の粒が隕石に、泡が美女に、青いインクが湖に…。そういう風に、色や物質、現象に意味を託すことも考えながら、絵を描いたり支度をしたりしています。

パフォーマンスが良い状態になると、絵描きの手を離れて自然に音と絵が生まれてくる感覚があります。もちろん物理的法則に従って、液体は動いていきますが、絵のなかの天地は絵の秩序です。だから、見立てはコントロールできる。例えば樹形ができたときに、先端を上にすると樹木に、下にすると根に見えやすい。絵の秩序と、物理の秩序を両方混ぜていくことで、イメージをどこまでも広げてゆきたい。

白の液体に描かれた樹型。温度や湿度によって、その広がり方は違ってくるという。

──なるほど。物理法則などの科学も意識して絵をつくられているんですね。

物理学者の方がパフォーマンスを見にきてくださったことがあって、いろいろ教えてくださったことがありました。その機会から特に、さまざまな分野に興味と発見があって、ちょっとずつ調べています。やはり、絵を描くことは自然科学とともにある。

学問が、捉えきれないモヤモヤしたことを、ときに言語化してくれます。体験した美しさがなぜ美しいのかわからないときに、それを言葉にして定着すると、もう一段階上の美しさに手を伸ばせる気がします。

普段目にしているさまざまな現象や色彩の美しさをもっと掴みたいので、不思議を絶やさずに進んでいければと思ってます。

INFORMATION

4/28(木)〜29(金)開催!「SOUND & CITY」

未来のTOKYOを「音」というテーマを通して体感する複合イヴェント「SOUND & CITY」。『WIRED』日本版とRizomatiks、そしてTechShop Tokyoのプロデュースで、4月28(木)29(金)にアークヒルズで開催。tofubeats、和田永などのアーティストとともに、BeatsのプレジデントやVESTAXの創業者らが登場する新しいタイプの複合イヴェント!