サッカーと距離と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろう。

 世界との距離だろうか? リオ五輪の組み合わせも決まり、U−23世代の現在地は気になるところだ。

 スウェーデン、コロンビア、ナイジェリアとのグループリーグは、率直に言って厳しい。だが、厳しいのはグループリーグだけでないのだ。

 グループ2位で準々決勝へ進出すると、ブラジルとの対戦が濃厚だ。グループ1位ならデンマーク、南アフリカ、イラクのいずれかになる。

 上位進出を果たすのであれば、グループ首位通過がマストだ。だが、対戦相手の顔ぶれを見ると、2位確保も簡単ではない。目標とするメダルへの距離が遠いことを、改めて感じる組み合わせだ。

 先週末のJ1リーグから、距離を感じるプレーがあった。中村憲剛のスルーパスである。FC東京との多摩川クラシコで、大久保嘉人の1点目を導いたシーンだ。

 センターサークル付近手前から、最前線を走る大久保へ1本のタテパスを通した。大久保が減速することなく、DFをブロックでき、GKが飛び出せないピンポイントパスだった。およそ35メートルの距離を、中村は絶妙な空間察知で制した。

 もっともシンプルであり、それでいて破壊力のある攻撃パターンは、スタンドで視察したハリルホジッチ監督が目ざすサッカーに収まる。35歳と33歳のホットラインは、日本代表でも十分に生きる。

 今シーズンの川崎Fは優勝争いを牽引しており、その中心には間違いなくこのふたりがいる。パフォーマンスは高いレベルで安定しているが、W杯開催時の年齢が評価に影を落とす。ロシアW杯への彼らの距離は、ちょっと残酷なくらいに遠い。

 とはいえ、彼らはまだ〈残り時間〉を気にする選手ではない。少なくともピッチ上でのプレーは、日本代表が射程圏内にあることを示している。

 距離というキーワードでは、熊本県などを襲っている地震にも触れるべきだ。

 先週末のJリーグでは、募金や黙とうが行われた。素早い対応は評価されていいが、一回で終わりにしていいはずがない。

 Jクラブの一員であるロアッソ熊本の選手や関係者は、困難な状況に立たされている。九州にホームタウンを置くその他のJクラブも、不安を抱えながら日々を過ごしているに違いない。

 被災した地域への支援に、正解はないと感じる。必要な支援は、その時々で、場所で、年齢で、性別で、家族構成で、その他色々な要素で違ってくるものだ。

 自戒を込めて考えると、大切なのは距離を理由にしないことだろう。物理的な距離が横たわるとしても、精神的な距離を遠ざけてはいけないと思う。