中国GPのレース後、マクラーレン・ホンダのエンジニアルームはどんよりとした空気に支配されていた。椅子の背に身体を預けて呆然とする各ドライバーの両脇を、レースエンジニアとパフォーマンスエンジニア(データ分析担当)が取り囲んで諭すように語りかけるが、ドライバーたちから納得の表情はうかがえない。

「弁解の余地なく、今の実力を忠実に反映したのが、この結果だと思います。去年のようにパワーユニットのトラブルに足を引っ張られて、セットアップが決まらずに力を出せないということではなく、力を出し切ってのこの結果ですから、なおさら残念です」

 ホンダの長谷川祐介F1総責任者は、12位・13位という入賞圏外で終わったレースをそう表現した。それは、マクラーレン・ホンダのスタッフ全員に共通した思いであり、だからこそレース後の技術ミーティングを終えたエンジニアルームは、茫然自失ともいえる雰囲気に包まれたのだ。

 雨と赤旗に翻弄された土曜日には、ポジティブな雰囲気があった。

 アタックの最中に赤旗が提示されてQ3進出のチャンスを断たれたとき、両ドライバーともに悔しそうに唸るような声を上げた。フェルナンド・アロンソは「ア〜〜〜、ア〜〜〜ッ!」と怒りをぶつけるように呻(うめ)き、ジェンソン・バトンは「冗談だろ!?」と言った。

「去年はQ1を突破するのにずっと苦労してきたけど、今年はQ3に行けるクルマがあるんだ。そのチャンスを逃したんだから、もちろん苛立ちもするし、特に今日はとてもフラストレーションを感じたよ。コンペティティブだと感じていたし、Q3に行けると思ったからね」(アロンソ)

 予選結果は12位・13位ではあったが、前戦バーレーンGPに続き、予選でQ3に進めるポテンシャルは示した。

「マシンパッケージとしての進化は着実に進んでいると思います。パワーはまだ十分ではないし、車体側も十分ではない。そこはお互いに理解し補い合っていますが、開発は確実に進んでいますし、うまく一発がハマればトップ10に入れるくらいの実力はあると思います。まさにその境界線上を行ったり来たり、というのが現状なんです」(長谷川F1総責任者)

 だが、決勝では他車の降格ペナルティによって11番・12番グリッドからスタートしたにもかかわらず、順位を下げトップ10から遠ざかってフィニッシュすることになってしまった。

「今の我々にとっては、予選一発よりも決勝ペースのほうが課題だ。特にタイヤのデグラデーション(性能低下)をどうコントロールするかだ」

 マクラーレンのあるエンジニアはそう語る。

 ダウンフォースの少ないマシンでは、タイヤを押さえつけて発熱させ、本来のグリップを引き出すことができない。むしろ、滑って表面だけがオーバーヒートし、タイヤの性能低下は速く進んでしまう。

「空力的にピーキーでセットアップの幅が狭いため、そこに合わせ込むのが難しい」(前出のエンジニア)

 事実、中国GPでも金曜フリー走行のラップタイムは散々なものだった。ペースの遅さもさることながら、ソフトタイヤが15周にも満たない周回数で終わってしまう。チームはこれを改善すべく、金曜の夜にセットアップ変更を施したが、土曜日は雨で確認ができないまま、ぶっつけ本番で決勝に臨まなければならなかった。そのため、決勝のタイヤ戦略は混乱し、遅いが長く保つミディアムタイヤを中心とした"耐えるレース"にならざるを得なかった。

「今週はピレリの規定内圧が高い(昨年比でフロントが+1PSI、リアが+1.5PSI)せいで、あちこちでフワフワと浮いて走っているような感じなんだ」

 バトンがそう訴えていたように、最低内圧規定の高さに苦しんだチームも少なくなかった。内圧が高いと、接地面積が減ってグリップが下がるだけでなく、オーバーヒートが起きやすくなる。

「たしかに内圧は上げた。しかし、走行時の実際の上がり幅はそれよりも小さいんだ。いくつかのチームはタイヤを冷やす方法を見つけ出しているからね」

 ピレリのあるエンジニアはそう説明する。タイヤをうまく手なずけたトップチームはそれができているが、マクラーレンにはまだそれができていないということになる。

 それだけでなく、戦略面でも完璧だったとは言いがたい。2ストップ作戦を採ったアロンソも、3ストップ作戦に切り替えたバトンも、戦略に疑問を持っていた。それが、レース後のどんよりとした雰囲気につながったのだ。

「2ストップ作戦がうまくいかなくて、最後にスーパーソフトでアタックするトライをしたけど、それもうまくいかなかったんだ。ミディアムタイヤで走ることが正しかったのか、きちんと分析する必要があると思う。まったくグリップがないし、一瞬たりともこれが正しいとは思えなかったからね。正しい戦略選択をしていれば、ポイント争いをするチャンスはあったと思う」(バトン)

 長谷川総責任者は「これが今の実力」と語ったが、それはマシンパッケージの実力ではなく、チーム全体として、レース全体をどうマネージメントするかというところまでを含めた実力、という意味だ。今のマクラーレン・ホンダには、マシンパッケージの実力はQ3に進み、ポイント圏内でフィニッシュするだけのものがありそうだが、それを引き出すまでの力がない。もしくは、そう簡単に引き出せるクルマに仕上がっていない。そういうことだ。

 いつまでもこんなレースはしていられないし、なんとかしなければならない――。長谷川総責任者はそうも語った。

「僕らはここからインプルーブ(進歩・改善)し続けていかなければならない。トップ7〜8に入るためには、0.5〜0.7秒のインプルーブが必要だ。その最後のステップはすぐそこまで来ていると思うんだけどね」

 アロンソのその言葉が、現実のものになることを願うしかない。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki