東京オリンピックのボランティアスタッフを希望する人は多くても、自分の語学力に自信がないという人は8割近い(EF社調べ)

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リオデジャネイロでオリンピックが開かれる今年。ホスト国はたくさんの外国人観光客を迎え入れることになるが、その時問題になるのが「英語」。現在ブラジルで、審判、ボランティア、タクシー運転手など50万人もの人たちに無償で英語レッスンを行っている企業のCEOに話を聞いた。

東京オリンピック開催まで、あと4年。昨年大きな騒動となった新国立競技場の設計案が決定し、再公募となったエンブレムも最終候補4案に絞られて最終選考が行われており、近く発表になる。今年の夏、リオデジャネイロオリンピックが終わればいよいよ、「東京2020」へのロードが始まる。

世界中からあらゆる競技のトップアスリートが東京に集結し、世界最高を決める熱戦が繰り広げられる。それを観戦するために、世界中から多数の観光客が東京へやってくる。その時、日本人はホスト国として、五輪招致のプレゼンテーションで滝川クリステル氏が宣言したとおり、「おもてなし」できるのだろうか?

■オリンピック開催国で「公式言語トレーニング」を無償提供

語学教育のEF Education First社(以下EF社)が、Twitterのフォロワーに対してオンラインで行ったアンケート調査では、「東京五輪のボランティアスタッフに参加したいか」との問いに85%が「はい」と答えながら、「東京五輪のボランティアスタッフとして活躍できる語学力を持っていますか」との問いに79%の人が「いいえ」と答えている。話したいのに、自信がない。日本人の国際コミュニケーションに対する「思い」と「現実」がまさに反映されたアンケート調査結果である。

そんな人たちに、良い情報がある。じつは近年の五輪には「公式言語トレーニング」というものがあるのだ。1964年の東京五輪や1998年の長野冬季五輪にはなかったため、初めて聞いた人も多いはず。語学教育機関がオリンピックの公式スポンサーとして、ホスト国の審判員、ボランティア希望者、バスやタクシーの運転手等に、英語教育プログラムを無償で提供するのである。

EF社は、スウェーデンに本拠地を置き、世界53カ国に500以上の拠点を持ち、語学学校、留学支援、オンライン英語学習等を展開する、世界最大級の語学教育機関だ。同社は2008年北京オリンピック、14年ソチ冬季オリンピック、そして今回の2016年リオデジャネイロオリンピックで、公式言語トレーニングサプライヤーを務めている。

リオデジャネイロでは現在、審判員、ボランティア、バスとタクシーの運転手、高校教師、高校生など、あわせて50万人以上に対して、英語学習や、ポルトガル語学習のプログラムを提供している。

EF社は、リオデジャネイロ以降も継続的に「公式言語トレーニングサプライヤー」として外国語学習プログラムの提供を希望しているという。創業者バーティル・ハルト氏(75歳)が来日して、インタビューに応じた。

「もし当社を東京五輪の公式語学トレーニングサプライヤーに選んでいただけたら、これほど名誉なことはありません。東京五輪が成功できるよう、最大限のサポートをしていきたい。数十万人に同時に英語を教えられ、実際に語学力を上げることができる組織は我々の他にはないでしょう。全世界で毎日数十万人の生徒に英語を教えている当社にとっては、難しいことではありません」(ハルト氏)

■50万人以上に英語を教える秘訣は「オンライン」

東京オリンピックにボランティアとして関わりたい人、英語を上達したい人にとって、願ってもないことである。実際には、どのような教育プログラムが提供されるのだろうか。これまでのオリンピックで提供してきた教育プログラムについて教えてもらった。

EFが提供するのは、独自の方法論に基づいたオンライン英語学習プログラムだ。自己学習のeラーニングと、オンライン英会話を併用する。

まずはじめにオンラインで英語力テストを行い、16段階の英語レベルに振り分けて、習熟度別の英語学習を行う。

eラーニングでは、ビデオ教材等を使い、自分の実力に合わせて、好きな時間に自習する。「読む」「書く」「聞く」「話す」の4つのスキルをすべてこれで学んでいく。

オンライン英会話では、マンツーマンレッスンとグループレッスンが用意されている。レッスン講師は、アメリカ人、イギリス人、カナダ人、南アフリカ人、オーストラリア人と、英語を第一言語とするネイティブ教師のみ。先生と自由に話をする、というのとは異なり、カリキュラムに基づいたレッスンを行う。

グループレッスンでは時間を決めたクラスにオンライン上で世界各国から生徒が参加し、コミュニケーション中心の授業を行う。複数人が参加するグループのなかで発言するのは、多くの日本人が苦手とするシチュエーション。それを経験することができる。

■タクシー運転手向け英語レッスンとは?

EF社のオリンピック用プログラムで興味深いのは、タクシーやバスの運転手に英語教育を行うことだ。リオでは約1万人の運転手に英語を教育しているという。

「(ボランティアスタッフや試合の審判など、高度なコミュニケーションを求められる仕事と違って)タクシー運転手の場合、英語を流暢に話すレベルにまで達する必要はありません。しかし、五輪開催都市の一員として、“Hello! How are you?”“How was your flight?”“Welcome to RIO!”などと気さくに挨拶をし、簡単でカジュアルな会話ができるだけでも、ビジターの印象はとても良いものになります。それこそまさに、おもてなしの対応なのです。また、単にオリンピックのために英語を学ぶのではなく、ご自身のキャリアアップにもつなげてほしい。例え話ですが、タクシー運転手が英語を話せるようになって、リムジンの運転手にキャリアアップする人もいるでしょう。そういう希望がある人は熱心にトレーニングを受けるし、上達も早いです」

■日本人の英語力はオリンピックまでになんとかなるか?

しかし日本人は世界的に見てかなり英語が下手だと、当の日本人は思っている。とにかく苦手意識の強い日本人の英語力を、本当に向上させられるのだろうか。

「中国やブラジルに比べれば、日本人に英語をトレーニングするのははるかに簡単だと思っています。日本人はベーシックな英語力がきちんと身についていますから。リーディングとライティングのレベルはすごく高い。ただ問題は、スピーキングとコミュニケーション。その経験が不足しています。北欧の学校ではライティングとスピーキングのテストが両方あるのですが、日本の学校のテストはライティングばかりでスピーキングがない。テストでやらないのでは本気で努力しないですから、苦手なのは仕方がないですね。ですから、スピーキングとコミュニケーションに力を入れればいい。当社のプログラムはまさにその苦手を克服できるプログラムですよ」とハルト氏は話す。

それほどのプログラムが無料なら、多くの人がトライしたいはずだ。では東京オリンピックに向けて、そのプログラムはいつ頃スタートするのか。

「(東京オリンピックで英語学習プログラムを提供するかどうか)決まっていないことなので明確には申し上げられないが、語学トレーニングはそれなりの時間がかかります。北京では4年、ソチでは3年、リオでは2年前にスタートしました。リオは少し時間が短いですね。我々は4年欲しいと思っています。早く始めればよりよい結果が出ますので、早く環境を整えていきたいと思っています」

4年あれば日本人の英語力は十分上がる、とハルト氏は話す。まさにオリンピックイヤーの今年、スタートすることができればベストということなので、興味がある人はぜひ続報を待ってほしい。

(嶺 竜一=文)