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●多彩な業態が集まる街だからこその商機
東京・日本橋。諸説あるが、徳川家康による江戸開闢(かいびゃく)の際、“日本中”の大名が集められ、その労力により街道を整備し橋を架けたことから「日本橋」と名付けられたといわれている。東海道五十三次の起点として知られ、小判を鋳造した「金座」(現・日本銀行)があった場所としても有名。現在も三越デパートのお膝元であり、江戸時代から続く商店が並び、賑わいをみせている。そんな古くから東京の流通・経済の中心地として栄えてきたこの地区が、新たなビジネスを生む場ともなっている。三井不動産がベンチャー支援に加えて、企業同士のオープンイノベーション空間として運営する「Clipニホンバシ」がその現場だ。

○ベンチャー育成に乗り出す三井不動産

Clipニホンバシは、日本橋地区に設けられた“コワーキングスペース”の名称。三井不動産が新産業創業に向け推進している「31VENTURES」の一施策だ。この31VENTURESには東京・霞が関や千葉県・柏市などにもベンチャー向け専有オフィスやコワーキングスペースが用意されているが、これらには数名〜十数名規模のベンチャー企業が入居できるオフィスも併設されている。一方、Clipニホンバシは、個人起業家を対象にした施設がメイン。Clipニホンバシを訪れてみると、その個人の起業家たちの熱気であふれている。

日本橋というと「日本橋三井タワー」や「コレド日本橋」といった最新のオフィスタワー、ショッピングセンターが並ぶ地域。個人起業家が事業の拠点にするには少々ハードルが高いのではないかと思ってしまう。だが、Clipニホンバシの立ち上げに携わった三井不動産 ベンチャー共創事業部 光村圭一郎氏は、そんな筆者の感想に対し「日本橋だからこそ独特のアイデアが生まれ、活発な事業になるのだと思います」と話す。

日本橋は最新オフィスやショッピングセンターが連なる一方、江戸時代からの老舗店舗も数多く残っている。多種多様な業態の企業・店舗が集まる街だからこそ、新たなアイデアが生まれやすいというワケだ。

●老舗企業の施策をベンチャーが推進
その典型例が、文明堂が発売する「おやつカステラ」だろう。文明堂といえば1900年(明治33年)に創業されたカステラ製造・販売の老舗。1951年に日本橋に本店をかまえ、以来“街の顔”としての役割も果たしている。だが、カステラは“贈答用お菓子”という位置づけだったため、パッケージが大きくなりしかも高級路線に走らざるをえない。日々の需要に応える製品ではなかったため、一時期低迷した。その高級菓子を“おやつ感覚”で楽しめないかと企画されたのがおやつカステラで、この製品のマーケティングを手がけたのがClipニホンバシのベンチャーだったという。老舗企業の施策をベンチャーが手がける……これこそまさに日本橋ならではのコラボレーションといえる。

さまざまな企業が集まっていることに加え、立地の“良さ”も日本橋の強みだといえよう。日本橋の北側にはポップカルチャー、サブカルの集積地・秋葉原が、南側には多数のグローバル企業が本社をかまえる大手町がある。アイデア次第で“アキバ文化”を絡めたり、グローバル企業を巻き込んだりもできる。

○専属スタッフが多角的にサポート

Clipニホンバシは、単にベンチャーにフリーアドレス制のワーキングスペースを提供しているのではない。さまざまな施策をとおし、ベンチャーが手がける事業をサポートしている。その代表的な存在が「プライベート・コンサルタント」で、これは31VENTURESのスタッフが、あたかもベンチャー企業の専属コンサルのように課題解決や人脈・企業紹介などを行うというもの。事業のアイデアはあるのにどう動いてよいかわからないといった際に助言したり、悩みを聞いたりとサポートしてくれる。

また光村氏はこうも続けた。「16年4月1日よりClip ニホンバシをはじめ、霞が関や柏市などにある複数の31VENTURESオフィスの利用者を束ねた『31VENTURESクラブ』を設立しました。クラブ設立により、これまでClipニホンバシのプライベート・コンサルタントは、31VENTURESクラブ会員であればご利用できるようになりました。さらに31VENTURESではこのコンサルに加え『コミュニティマネージャー』も導入しています」。コミュニティマネージャーは、会員と会員をつなげて共同体を創り上げるのが役割。そのベンチャーに対し、どのような“つながり”が必要なのか模索し、提案する。Clipニホンバシの利用者は、プライベート・コンサルタントとコミュニティマネージャーによって多角的にサポートされるのだ。

●イベントで起業家・企業の“つながり”を創出
さらに「水曜Clip」と呼ばれるイベントも開催されている。最先端の仕掛人と出会う「チラミセnight」、実績あるイントレプレナーと出会い、コラボの可能性に挑む「イントレnight」、プライベート・コンサルとともにアイデアブラッシュアップのプロセス体験ができる「コンサルnight」、ほしい人材をスカウトする力を磨く「エントリーnight」といったイベントをとおし、出会いとビジネス機会を創出している。このように、単にオフィス空間の提供だけでなく、人的支援が手厚いのが特徴だ。

この三井不動産が推進する31VENTURESのほか、三菱地所が主導する「EGG JAPAN」「グローバルビジネスハブ東京」など、デベロッパーはベンチャー支援に積極的だ。デベロッパーというと、土地を開発しオフィスビル・住宅を建て、街を創っていくのが主事業だが、こうしたハード面だけを整えても街の活性化は望めない。企業や事業、そして人というソフト面の育成も“街づくり”の大切な役割といえるだろう。

(並木秀一)