「米コロンビア大学医療センターのスタンフォード・チフリ氏らは、55歳以上の中・高年層が運転をやめると、気分の落ち込みや意欲の低下などの『うつ』になる危険性が2倍になったと報告しました。加齢による運転能力の低下はよく調査されていますが、運転をやめることで健康に与える影響についての研究はかなり珍しいものです」

そう話すのは、順天堂大学医学部教授で自律神経研究の第一人者・小林弘幸先生。この報告をしたチフリ氏は、4カ国、16件の研究論文を調査。それによると『うつ』が倍増した以外にも、長期療養施設への入所リスクが5倍近く上昇したり、死亡リスクも上がったりしたという。

「車の運転は、視覚を使い、手でハンドルを繰り、足でアクセルとブレーキを踏むことを同時にしています。これは昨今、認知症の予防法として効果があるといわれているデュアル・タスク(2つの課題を同時にこなす)でもあります。また、いつもと違う場所に車で行くことも脳を刺激します。運転をやめてしまうことで『うつ』が増加するのは十分考えられることです」

とはいえ、やはり車の運転は事故の危険性も。

「そこで私が提案したいのが『料理』です。認知症予防の運動や“脳トレ”はたしかに効果はありますが、それを続けるにはかなりの努力が必要。しかし『料理』はふだんの暮らしの中でも、気軽に脳を鍛えることができるのです」

人の脳の中でも複雑な情報処理を行う「前頭前野」は「料理」をすることで、活性化することが、最近の脳科学の研究でわかっている。

「その理由を私なりに読み解いてみましょう。料理をする前に、まずはメニューを決めます。献立を決めたり、栄養のバランスを考えたりするだけでも脳は刺激されます。また料理に合った切り方をしながら、次の手順を考えたりします。焼いたり、蒸したりなどの調理法もいくつもあります。もちろん味つけや盛りつけにも苦慮します。健康のことに配慮することも前提です。つまり五感を使い、デュアル・タスクが連続する−−。それが料理なのです」