4月17日に石川県輪島市で開催された、日本選手権50km競歩。昨年の世界選手権銅メダル獲得でリオデジャネイロ五輪代表内定を手にしている谷井孝行(自衛隊)にとっては、「最終的にはリオへ向けたレースでもあるので、昨年の世界選手権が終わった時から今回に限っては特別ここにピークを合わせることなく、8割程度の力で出場すると決めていた」という大会だった。

 昨年10月の全日本競歩高畠大会で派遣標準突破して優勝した森岡紘一朗(富士通)が2人目の代表内定を決めていて、残り1枠を争う重要な大会。谷井は8割程度と言いながらも、リオ五輪本番で優勝争いをするために日本記録の3時間40分12秒を大きく上回る、3時間38分台の記録を狙っていた。それは、昨年のこの大会で3時間42分01秒の世界ランキング3位の記録を出していたにも関わらず、8月の世界選手権で、前半から飛び出して優勝したマテイ・トート(スロバキア)につく勇気が持てなかった反省からでもあった。

 ところがレース当日は前日の穏やかな晴天から一変し、雨だけではなく強風も吹き荒れる天候になってしまった。そんな中で谷井は目標を3時間41分台に変更し、最初からひとり飛び出すレース展開で36kmまではほぼ予定通りの歩きをした。

 だが、天候は30kmを過ぎたあたりから晴れてくると、気温が20度近くまで上がり、風はさらに強まってきて終盤には会場にある大会の幟(のぼり)の竿が折れた。近所では農業用の大きなビニールハウスが吹き飛ばされる事故も起きるほどの強風が吹き荒れ、谷井の歩きに影響が出た。

「前半は(2km)8分50秒でいったけど強い風の影響もあって体も重く、向かい風の区間で非常に体力を使ってしまった。後半になるにつれて風も強くなったので、さらに体力を削られてペースダウンしてしまいました」

 谷井がこう言うように、36km過ぎからは2km9分台まで落ちたペースをさらに落とし、46km地点では一時、1分23秒差まで離していた2位の荒井広宙(ひろおき/自衛隊)に35秒差まで詰められた。

「3月までは非常にいい練習ができていましたが、思った以上にその疲労があるなと1週間前から感じていて、後半は、そういう疲労が出てきたのかなと考えながら歩いていました。35kmくらいからは後ろの荒井とのタイム差を有効に使おうと、少し体力を温存しつつ、残り5kmは荒井より速く、もしくは同じでもいいから差を縮められないようなレースを考えていました。レースとしてはうまくまとめられたけど、そんな勝負にこだわってしまったのが自分に対する負けというか、ちょっと悔しいところですね」

 結果、荒井との35秒差を維持したまま、3時間44分17秒でゴール。2年ぶり3回目の日本選手権王者となった。

 レース後、谷井は「第100回大会というのは頭に入っていたし、昨年は荒井に負けて連覇を途絶えさせていたので今回は勝つことも考えてレースを進めていきたいと考えていました。でもこれまでの優勝と違うのは、ちょっと物足りないというか、自分の中ではどちらかというと悔しい気持ちの方が大きいですね」と振り返った。

「ちょっと練習の内容(ペース)を上げ過ぎたのかもしれないというのはあるけど、それはそれでいい経験にもなったし、今回はレースがどうのこうのより、そこまでやってきた練習を含めれば自分なりの手応えもあります。結果は3時間44分でしたが、風や天候を考えればもう少しいけたという自信はあるし、3時間40分を切って歩ける体もできていると思っています。それを(本番で)出すために必要なのは調整であり、練習での動きづくりだったりするので、そういう総合的なところをこれから詰めていきたいですね」

 こう言ってリオの金メダルに照準を合わせる谷井に加え、この日本選手権で2位に入り、派遣標準突破した荒井が代表入りを確定。さらに11年世界選手権6位で12年ロンドン五輪10位の森岡も加え、50km競歩は史上最強の布陣でリオに臨める状況になってきた。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi