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トヨタ新型「パッソ」、ダイハツ新型「ブーン」がそれぞれ発売された。排気量1リットルのコンパクトカーとあって、決してクルマ好きから羨望のまなざしを受けるようなモデルではない。しかし、今回のフルモデルチェンジでの注目度はきわめて高かった。その理由はどこにあるのか?

新型「パッソ」「ブーン」が注目される理由はひとつではなく、さまざまな面から読み解ける。まずひとつは、今年1月末にダイハツがトヨタの完全子会社と報道されて以降、新型「パッソ」「ブーン」がその成果を問う最初のモデルになるということだ。

ダイハツはずっと以前からトヨタと協力関係にあったので、完全子会社化のニュースを聞いてもあまり意外性はなく、それによって何がどうなるのか、その具体的なイメージもピンとこないところがあった。しかし、新型「パッソ」「ブーン」によって、その意味がより具体的になった。トヨタは同社のラインアップのうち、ボトムエンドとなるコンパクトモデルをダイハツに任せたのだ。

これはトヨタ「86」・スバル「BRZ」を富士重工業に開発・製造してもらうことで、トヨタが富士重工業にスポーツカーを任せた図式とよく似ている。両社の関係は資本提携であって子会社ではないが、要するに「トヨタはこれからそういう戦略をとっていくのだな」と思わずにいられない。なんでもかんでも社内でまかなうのではなく、適材適所、一部のジャンルは外に出す、つまり外注することで、さらなる効率化をめざすということだ。

ただし、「86」「BRZ」と今回の新型「パッソ」「ブーン」では、事の重大性がまったく違う。スポーツカーはブランドイメージの向上という意味で重要なジャンルだが、どう転んでも大量に売れるものではなく、商売として大きなものではない。

これに対して、コンパクトカーは販売台数が桁違いに多く、自動車メーカーの屋台骨を支える最重要ジャンル。もちろんトヨタにとってコンパクトカーは「パッソ」だけではないが、しかし「パッソ」は国内市場だけでなく、大幅な成長が見込まれる中国やインドを含むアジア圏の市場に照準を合わせている。大成功すればトヨタをいま以上に大躍進させる原動力ともなり得るのだ。

そんな重要なモデルをなぜ外注するのか? という意見もあるかもしれないが、重要だからこそ、純血主義にこだわっている場合ではないという大胆な判断だといえる。これらの市場向けのモデルはなにより価格競争力が重要であり、コストを削減するノウハウが求められる。近年、ラインアップ全体がプレミアム化の傾向にあるトヨタは、この点でダイハツの力を必要としたのだ。

○新型「パッソ」トヨタのエントリークラスの決定版に

新型「パッソ」「ブーン」を別の目で見ると、トヨタの考えるエントリークラスの解答がようやく出たともいえる。ここでいう「エントリークラス」とは、コンパクトカーの中でもその中心をなす「ヴィッツ」「イスト」「オーリス」といったモデルの下に位置するモデルだ。日本ではかつて、「リッターカー」という名前で一大ブームが起きたことがあり、ダイハツには「シャレード」という大人気モデルがあった。同様に、スズキは「カルタス」、日産は「マーチ」、三菱は「ミラージュ」、スバルは「ジャスティ」と、各メーカーにリッターカーの人気モデルがあったものだが、トヨタにはない。もちろん「スターレット」という歴史的なモデルがあるのだが、これは1.3リットルクラスだ。

その「スターレット」は1999年、「ヴィッツ」へとバトンタッチ。「ヴィッツ」は1.0リットルエンジンでスタートするなどダウンサイジング(当時こんな言い方はしなかったが)して登場したリッターカーだったが、1.3リットル、1.5リットルといったエンジンをすぐに追加し、ボディサイズも2代目モデルでその車幅が5ナンバー枠いっぱいの1,695mmに大型化した。現行モデルにも1.0リットルエンジンがラインアップされているとはいえ、エントリークラスとは言いがたい。

リッタカーカーブームは終焉を迎えたものの、「マーチ」や「カルタス」(後の「スイフト」)はそれぞれのメーカーの看板モデルとなった。「ヴィッツ」より小さなモデルが必要であることはトヨタも認識しており、2004年に初代「パッソ」を発売。ダイハツからは「ブーン」として発売されている。新型「パッソ」「ブーン」は企画段階からダイハツが担当しているのに対し、初代および2代目「パッソ」「ブーン」は企画がトヨタ、開発・生産がダイハツとなっていた。

しかしトヨタは、こうしたエントリークラスに対して独自の考えがあったようで、「パッソ」が好調であったにもかかわらず、2008年に「iQ」を発売している。

「iQ」はエントリークラスというよりは、世界的に関心の高まっていたマイクロカー、つまり「スマート」のようなコンセプトで、軽自動車より短い全長、3+1シーターという変則的パッケージングなど、大胆な試みを具現化したものだった。日本カー・オブ・ザ・イヤーやグッドデザイン大賞を受賞するなど評価は高かったが、販売面は低調どころではない惨敗を喫したと言わざるをえない。

「パッソ」は2代目モデルも好評だったが、トヨタはコンパクトカーのラインアップが非常に豊富であり、しかも本来は別のクラスのモデルである「アクア」の存在感があまりに大きいことから、「パッソ」はどちらかというと目立たない存在となった。ダイハツ「ブーン」にしても、ダイハツが販売面でとくに力を入れていたようには見えない。

しかし、今回発売された新型「パッソ」「ブーン」は、これまでと力の入れようが違う。紆余曲折あったトヨタのエントリークラスにおいて、これが決定版といえるだろう。

○トヨタは軽自動車をどう考えているのか?

日本市場に限定してみると、新型「パッソ」はトヨタの軽自動車に対する究極的な解答だということもできる。

トヨタ、それに日産は、軽自動車の販売がどれほど増加しようとも、長い間このジャンルに参入しなかった。しかし日産は三菱自動車とタッグを組み、本格的な参入へ舵を切った。今後は軽自動車を自社開発・生産するともいわれている。トヨタもダイハツからのOEM供給を受け、軽自動車「ピクシス」シリーズを数年前から販売しており、ダイハツを完全子会社化することで本格参入するかと思いきや、出てきたのは新型「パッソ」「ブーン」。

もちろん、ダイハツを完全子会社化したからこそ、トヨタはむしろ軽自動車を出す必要はなくなったともいえる。ただ、新型「パッソ」のキャッチコピーは「軽じゃないK」であり、テレビCMでは「軽自動車と間違って買っても後悔しない」と豪語している。とても「グループ会社から軽を出しているからウチはコンパクトで棲み分けします」という雰囲気ではない。軽自動車など駆逐してやるといわんばかりだ。

トヨタは軽自動車をどう考えているのか? これまでに何度も話題になったことだが、今回トヨタが示したのは、軽自動車に対し、あくまで登録車で対抗するという決意だろう。そしてその手段は、ある意味禁じ手ともいえる「軽自動車の技術で登録車を作ること」だったわけだ。テレビのヒーローものでは、敵のパワーを自分のものにして戦うのは仮面ライダーの頃から定番の設定だが、それを思い起こさせるトヨタのしたたかさだ。

最後にもうひとつ、新型「パッソ」「ブーン」の注目ポイントを上げておこう。それはこのモデルが日本で生産されることだ。当たり前といえば当たり前なのだが、先日スズキから発売された「バレーノ」はインド製。また、三菱自動車はタイで生産した「ミラージュ」を、日産もタイで生産した「マーチ」を販売している。海外生産の理由はもちろんコスト。人件費の高い日本では、コストダウンには限界があるということだ。

ところが、限界までコストダウンを突き詰め、低価格で登場した新型「パッソ」「ブーン」が日本製。国内生産でもここまでできる、いや、やってみせるという、これはトヨタ・ダイハツ両社の挑戦ともいえる。

(山津正明)