■NBAプレーオフ2016・ファーストラウンド展望@ウェスト編

 レギュラーシーズン82試合を終え、各カンファレンス上位8チームによるプレーオフが開幕。空前絶後のハイレベルな戦いを見せるウェスタン・カンファレンスでは、プレーオフでも新たな"伝説"が生まれるかもしれない。ウェストのファーストラウンド、4カードの見どころを紹介する。

[ファーストラウンド対戦カード@ウェスタン・カンファレンス]
ゴールデンステート・ウォリアーズ(1位)対ヒューストン・ロケッツ(8位)
サンアントニオ・スパーズ(2位)対メンフィス・グリズリーズ(7位)
オクラホマシティ・サンダー(3位)対ダラス・マーベリックス(6位)
ロサンゼルス・クリッパーズ(4位)対ポートランド・トレイルブレイザーズ(5位)

 今季のNBAを観戦することは、「伝説の目撃者となる」ということである。

 レギュラーシーズン、73勝9敗――。今季、ゴールデンステート・ウォリアーズは1995−96シーズンのシカゴ・ブルズを抜き、NBA史上最高勝利記録を樹立した。シーズン最多勝利数の順に振り返ると、1995−96シーズンのブルズ(72勝10敗)のみならず、1971−72シーズンのロサンゼルス・レイカーズ(69勝13敗)も、1996−97シーズンのブルズ(69勝13敗)も、プレーオフを制してNBAを制覇している。ウォリアーズが優勝すれば、もちろん「伝説のシーズン」となり、もしもウォリアーズに打ち勝つチームが現れるのなら、それもまた「伝説のチームを破ったチーム」と呼ばれるはずだ。

 ファーストラウンドで対戦するゴールデンステート・ウォリアーズ(73勝9敗/1位)対ヒューストン・ロケッツ(41勝41敗/8位)の組み合わせは、昨年のカンファレンス・ファイナルと同じカード。昨年は4勝1敗でウォリアーズが勝ち抜いたが、チーム力の差は格段に開いた。ロケッツはジェームス・ハーデン(SG)、ドワイト・ハワード(C)といったスター選手を擁するも、ウォリアーズの前では"引き立て役"にしかならないだろう。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 近年、さほどNBAを観ていないのなら、ゲームの見どころは、とにかくウォリアーズの「背番号30」だけを追いかけてほしい。「史上最高のシューター」と呼ぶにふさわしいステファン・カリー(PG)は今季、シーズン通算スリーポイントシュート成功数402本という歴代最多記録を樹立した。ちなみに歴代2位は、昨季のカリー自身による286本。今季、スリーポイントシュートの成功数がもっとも少ないチームがミルウォーキー・バックスの440本で、その次がミネソタ・ティンバーウルブズの455本であることからも、カリーの402本という数字がいかに圧倒的な数字なのかわかる。

 カリーがボールを持ったら、まだスリーポイントラインから離れていても、瞬(まばた)きは禁物だ。スリーポイントラインは7.239メートル。しかし、カリーの射程範囲は、それよりもかなり遠い。40フィート(約12.2メートル)以上離れた超ロングシュートを練習メニューに取り組み、ノーマークでの練習時ならば、その成功率は60%とも言われている。つまり、カリーの射程距離は......にわかには信じがたいが、センターサークルの外周あたりまであるということだ。

 このカードは勝敗以上に、カリーが何本のスリーを決めるかが一番の見どころかもしれない。

 一方、ブルズの伝説を破ったのがウォリアーズなら、ラリー・バードらを擁したセルティックスの伝説に並んだのが、今季のサンアントニオ・スパーズだ。ホームでわずか1敗しかせず、1985−86シーズンにセルティックスが残したホーム最多勝利記録40勝1敗に並んだ。

 スパーズの強さは、「玄人好み」とよく言われる。たしかにウォリアーズのような派手さはない。1試合平均92.9失点は、2位のユタ・ジャズの95.9失点を引き離して断然のリーグナンバーワン。しかし、平均103.5得点はリーグ10位だ。数字からは一見、守備のチームのような印象を受けるが、そうではない。

 スパーズの「Off Rtg(オフェンシブ・レーティング/攻撃機会100回あたりの得点)」は108.4得点で、ウォリアーズ(112.5得点)、オクラホマ・サンダー(109.9得点)に次ぐリーグ3位。派手さこそないが、効率よく得点を獲るのがスパーズのスタイルだ。これは、名将グレッグ・ポポヴィッチの哲学に基づいている。オフェンスでは、よりオープンな状態でシュートを打てるように1本でも多くのパスを回すのが、スパーズの鉄則になっている。

 サンアントニオ・スパーズ(67勝15敗/2位)対メンフィス・グリズリーズ(42勝40敗/7位)のファーストラウンドは、スパーズの効率的なオフェンスに注目だ。グリズリーズは、マーク・ガソル(C)が右足の手術によって今季中の復帰は絶望的で、マイク・コンリー(PG)も左アキレス腱炎で完調には程遠い。スパーズがスイープ(4勝0敗)する可能性も高く、新エースのカワイ・レナード(SF)を筆頭に、スパーズの選手がコート上でポポヴィッチ・イズムをどう表現するか堪能したい。

 また、オクラホマシティ・サンダー(55勝27敗/3位)対ダラス・マーベリックス(42勝40敗/6位)のカードも、大きな波乱はないと予想されている。ケビン・デュラント(SF)とラッセル・ウェストブルック(PG)の2枚看板を擁するサンダーの優位は揺るがないだろう。

 今カードで注目したいのは、ウェストブルック。今季18度のトリプルダブルを達成し、1981−82シーズンのマジック・ジョンソンに並ぶ記録を樹立した。しかも、ウェストブルックがトリプルダブルを達成した試合は、すべてサンダーが勝利している。ファーストラウンドでもトリプルダブルをマークするのか、ウェストブルックのプレーを注視したい。

 ファーストラウンドでアップセット(番狂わせ)が起きるとしたら、ロサンゼルス・クリッパーズ(53勝29敗/4位)対ポートランド・トレイルブレイザーズ(44勝38敗/5位)ではないだろうか。

 トレイルブレイザーズは今オフ、ラマーカス・オルドリッジ(PF/スパーズ)ら昨季のスターター4人を一挙に放出し、「チーム再建に何年を要するのか?」と言われていた。しかし、フタを開けてみればウェストの第5シードを奪取。一躍、プレーオフのダークホースに名乗りを挙げた。

 躍進の一翼を担ったのは、プロ3年目のC・J・マッカラム(SG)。昨季平均6.8得点から今季平均20.8得点と大ブレイクを果たし、チームに勢いをもたらした。また、エースのデイミアン・リラード(PG)も好調をキープし、今季はキャリアハイの平均25.1得点(リーグ6位)をマークしている。特に圧巻だったのが、2月19日に行なわれた王者ウォリアーズとの一戦。リラードは9本のスリーポイントシュートを含む51得点を挙げ、137−105で圧勝する立役者となった。

 対するクリッパーズは、万全の態勢でプレーオフに突入したとは言いがたい。エースに成長したブレイク・グリフィン(PF)は、大腿部の負傷とチームスタッフを殴って右手を骨折という不祥事で、レギュラーシーズンを長期離脱。4月3日に復帰を果たすも、まだ本調子ではないからだ。グリフィンに頼らずとも勝機は十分という見方もあるが、勝ち抜けばカンファレンス・セミファイナルでウォリアーズとの対戦が濃厚なだけに、グリフィンに早く試合勘を取り戻させたいところ。そこに隙が生まれれば......。

 ウェストのシード上位チームの戦力は、下位のそれを圧倒している。しかし、より激しさを増すカンファレンス・セミファイナルを控え、各チームの思惑が錯綜もする。そこに、まさかの大番狂わせが待っているのかもしれない。

水野光博●文 text by Mizuno Mitsuhiro