プロゴルフの世界は厳しいなあと、つくづく思う。ジョーダン・スピースが何の保証もないままノンメンバーとして米ツアーに挑戦し、瞬く間に世界一へと上り詰めていった姿を見れば、プロゴルフの世界は大きな夢が叶う素敵な場所だと思える。

 しかし、その一方で、先週のマスターズで喫したあの惜敗はスピースにとって耐えがたいほどの悔しさだったに違いない。
 天国と地獄。その両極をわずか数年の間に味わうのだから、よほど強靭なメンタルを持ち合わせていない限り、この世界で生き残ってはいけないだろう。帝王ジャック・ニクラスがわざわざスピースに激励のメッセージを送ったのは、ニクラス自身がその苛酷さを何度も痛感し、それを乗り越えることの大変さを熟知しているからこそ、スピースを励まさずにはいられなかったからだと思う。
 「マスターズを連覇した選手は過去にほんの数人しかいない。ジョーダンはその偉業を、しかも誰よりも若くして成し遂げようとして、そのすぐそばまで行ったのだから、キミの健闘は賞賛に値する。今回は敗北したけど、この経験はきっとキミの糧になる」(ニクラス)
 ニクラスの言う通り、モノは考えようだ。敗北を喫したとはいえ、マスターズのサンデーアフタヌーンに3年連続で優勝を本当に間近に感じながら戦ったことだけでも、スピースの健闘は大きな賞賛に値する。
 なぜ、こんなことを今さら書いているかと言えば、今年のオーガスタに絶対に居たと信じていたある選手が、実は出場できていなかったことを今さら知り、彼の胸中を思うと、スピース同様、やるせない気持ちになるからだ。
 米ツアー5勝のルーク・ドナルド。かつては世界ナンバー1にも輝いた英国人選手。メジャーでも何度も優勝間近まで迫ったが、今なおメジャータイトルは手に入れておらず、ここ数年は成績が下降気味。米ツアー優勝からは2012年を最後に遠ざかっており、そのため、今年は、この10年間、ずっと出場し続けてきたマスターズに、ついに出られなくなってしまっていた。
 オーガスタではアマチュアのブライソン・デシャンボーが話題になり、そのデシャンボーが今週はプロ転向してヘリテージに出場して4位と大健闘した。
 ドナルドも、かつては、今年のデシャンボーと同じように「世界一のアマチュア」と呼ばれた。そして、今週のヘリテージでは最終日を首位で迎え、来年のオーガスタへの切符をつかもうとしていた。しかし、最終日に追撃をかけてきたブランデン・グレースに追い付かれ、追い抜かれ、2位に甘んじて唇を噛み締める結果になった。
 ドナルドは、このヘリテージでは過去にも2度、最終日を首位で迎えながら惜敗した経験がある。この地で優勝に王手をかけながら逃したのは今回が3度目。だが、たとえ何度首位に立とうとも、最後に首位に立っていなければ、優勝もオーガスタへの切符も手に入らない。
 ヘリテージは言うでもなくメジャーでもビッグ大会でもないが、ドナルドが噛み締めた悔しさと落胆は、ドナルドにとってはスピースのそれと同じぐらい痛烈な心の痛手になったであろう。そう考えると、プロゴルフの世界は本当に厳しいなあ、残酷だなあと思わずにはいられない。
 だが、敗者が居るということは、勝者も居るということ。ヘリテージを制し、米ツアー初優勝を挙げたグレースは南ア出身の27歳。昨年、ノンメンバーで米ツアー挑戦を開始し、早々にシード選手になり、そして初優勝を遂げ、来年のマスターズ出場資格を獲得。そんなグレースの歩みは、かつてのスピースのそれとそっくりだ。
 笑う人がいれば泣く人がいるのが勝負の世界。新しいスター候補が出現しては去っていくのも勝負の世界。ヘリテージはドナルドには酷な結末になったけれど、グレースという新星が誕生したことは、厳しいこの世界における朗報である。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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