左・安倍晋三公式サイト/右・右・フジテレビ『 ワイドナショー』番組ページより

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 本日、放送される予定だった安倍首相出演の『ワイドナショー』(フジテレビ)だが、熊本大地震発生のため中止となった。安倍首相が同番組の収録に参加したのは、14日夕方。その後、21時26分に最初の地震が起こり、昨日16日深夜の本震によって被害がさらに拡大したことを受け、放送見送りを決定したようだ。

 番組では、松本人志をはじめ、MCの東野幸治、南海キャンディーズの山里亮太、指原莉乃、社会学者の古市憲寿らゲストとともに安倍首相がフリートークに参加したといい、古市氏も番組休止決定後に〈東野さんが安倍首相に「気が短いんじゃないか」と突っ込んでいたり、木曜日夕方の収録はとても面白かったです〉とツイートしている。緊迫した救出活動がつづき、多発する大きな地震に不安が増す被災地のことを考えると、呑気に放送する内容ではなく、中止は当然といえる。

 だが、地震の有無とは関係なく、この時期に安倍首相が出演する情報バラエティ番組を放送することは"暴挙"だった。

 というのは、今月12日に北海道5区と京都3区で衆議院補欠選挙が告示、現在は選挙期間中だからだ。

 そもそも、自民党は2014年の総選挙時に、在京テレビキー局に対し"選挙期間中は公平中立、公正な報道を"という文書を送りつけている。この文書送付は、解散当日に安倍首相が生出演した『NEWS23』(TBS)で、アベノミクスの効果を実感しないという街頭インタビューの内容に安倍首相がキレたことがきっかけだった。つまり自民党は、この文書によって「選挙期間中の自民党批判はやめろ」という圧力をかけたのだ。

 他方、選挙期間中に自民党の党首である総理が野党の同席もなく単独でテレビに出演し、和やかに芸能人たちとトークを繰り広げる......。これこそ"公正中立"に反した放送法違反だと言うべき行為だろう。

 事実、安倍首相が今回、『ワイドナショー』への出演を決めた背景には、参院選の前哨戦といわれる補選での"劣勢"が関係している。

「『ワイドナショー』への出演が発表されたのは今月の10日ですが、じつは急に出演が決まった。その裏には、4月のはじめに北海道新聞が出した補選の調査結果があります。町村信孝元官房長官の娘婿である和田義明候補が野党の池田真紀候補に4ポイント差で負けているというもので、この調査データに自民党は真っ青。なにせ町村さんの盤石な地盤を引き継いだ"弔い合戦"にもかかわらず、この結果ですから。これはまずいということで、安倍首相自ら北海道の有力者へ次々に"直電"するなど対策を講じていましたが、一気に巻き上げるため、もっとも訴求力があるテレビ出演を決めたんです」(新聞社政治部記者)

 さらに、安倍首相を駆り立てているのは、北海道5区での形勢不利だけではない。本サイトで既報の通り、党本部が調査会社を使ってひそかに行った衆院選の情勢調査データも想定を大きく下回り"過半数割れ"の可能性が出てきてしまった。そのためにも今回の補選は、絶対に負けられない選挙なのだ。

 直接、補選のアピールをすることはなくても、"党の顔"である安倍首相の良いイメージを植え付けられる番組は何か──そこで選ばれたのが、『ワイドナショー』だったというわけだ。

 たしかに、『ワイドナショー』は安倍首相にとって現在、最高にアピールできる番組だろう。同番組は10%台を叩き出すこともめずらしくない高視聴率を維持しているだけでなく、毎回と言っていいほど番組内での松本や出演者のコメントはYahoo!ニュースで取り上げられ、大きな注目を集めている。

 だが、安倍首相が『ワイドナショー』に白羽の矢を立てたのは、これだけが理由ではないだろう。それはずばり、松本人志の存在だ。

「安保法制が議論になっていた際も、松本氏は番組内で『安保法制反対は平和ボケ』『反対するなら"対案"を出せ』などと安倍首相とまったく同じ主張を行い、安倍首相の愛読誌である『正論』も松本氏を褒め称えていました。安倍首相にもこうした松本氏の言動はもちろん伝わっています。安倍首相は松本氏のことを"もっとも社会に影響力のある自分の理解者"と捉えているはずですよ」(同前)

 安倍首相は、昨年の安保法制の採決前にも、『みんなのニュース』(フジテレビ)や『情報ライブ ミヤネ屋』『そこまで言って委員会NP』(ともに読売テレビ)などの民放番組に出演しているが、いずれも自分を味方してくれるテレビ局であり、『みんなのニュース』で"火事のたとえ話"によって炎上して以降は、宮根誠司や辛坊治郎、青山和弘・日本テレビ政治部副部長など、自分を擁護してくれる出演者がいる番組を選んできた。

 そして、今回の『ワイドナショー』には、自分と同じような思想をもつ松本という力強い味方がいる。しかも、東野や山里、指原といった芸能人たちが松本と安倍首相に本気で噛みつくことなどあるわけがなく、同じく古市にしても自民党の"歴史修正運動"である「歴史を学び未来を考える本部」のオブザーバーであり、大きな心配はない。......安倍首相はきっと、大船に乗ったつもりで番組収録に参加したはずだ。

 しかし、繰り返すが、いまは選挙期間中だ。「公平中立」をもち出すならば、少なくとも野党の議員を同席させるか、あるいはジャーナリズムの原則に従って番組が政権に批判的に迫ることができなければ、公共の電波を使った政権のたんなるPRの場となってしまう。よって、このような首相単独のテレビ出演は行うべきではない。今回の『ワイドナショー』は放送法に抵触する問題であり、放送見送りは地震とは関係なく、当然なされるべき処置だったのだ。

 こうした安倍首相のなりふり構わないメディアの"私物化"は論外の行為だが、それにしても、自身の番組が政治に利用されることを受け入れるとは、松本人志もどうかしていると思わざるをえない。

 松本人志の性格と権力を考えた場合、フジテレビだけで『ワイドナショー』の出演者を勝手に決めることはありえない。相手が安倍首相であっても、必ず、松本に事前におうかがいをたてているはずだ。これはつまり、松本自身も安倍首相に尻尾を振って、出演を歓迎したということだ。

 それでも、番組中に誰かが厳しい批判でもしているのであれば、救いがあるが、これもほとんど期待できない。それは前述した古市氏のツイッターを見ても明らかだ。古市氏は番組内容が〈とても面白かった〉具体例として、〈東野さんが安倍首相に「気が短いんじゃないか」と突っ込んでいた〉と挙げているのだが、これは逆にいうと、その程度しか突っ込めていない、ということだろう。

 同じく古市氏のツイートによると、今回の安倍首相出演回は〈再来週以降で放送予定〉とのこと。本サイトでは引きつづき、この安倍首相のメディア私物化問題を注視していきたいと思う。
(水井多賀子)