仏の功徳を象徴する「普賢菩薩像」。3幅からなる「釈迦三尊像」の1幅

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18世紀に京都で活躍したことで知られる画家、伊藤若冲(1716〜1800年)。近年多くの人に愛され、日本美術の中でもその輝きを増す若冲だが、その生誕300年を記念して、初期から晩年までの代表作品89点を集めた東京初となる大回顧展「生誕300年記念『若冲展』」が、4月22日(金)より東京都美術館で開催される。

「釈迦三尊像」の1幅、須弥座上に坐した「釈迦如来像」

繊細な描写技法によって美しく鮮やかに描かれた動植物をはじめ、即興的な筆遣いとユーモラスな表現による水墨画、複雑に技法を組み合わせて作られた版画作品など、85歳で没するまで精力的に制作を続けた若冲。本展は、そんな若冲を語るうえで欠かせない傑作が一堂に集結するかつてない規模の展覧会となる。

■ 初期から晩年まで。その生涯と画業に迫る

問屋家業を継いだ若冲が、家督を譲り、次第に画業に没頭するようになったのは40歳ごろから。それでも早くから絵画に心を寄せ、狩野派の画法の学習から、中国古典絵画の模写、身近な動植物の観察を繰り返すなど、作画を重ねていた。そして、80歳を過ぎてからも作風の異なる対策に挑戦するなど、描くことへの旺盛な探究心は衰えることがなかった。

本展では、初期から晩年まで、様々な技法を駆使して制作された作品を展観し、天才と呼ばれたその一端を垣間見る。

■ 東京では初めて!まぼろしの33幅が一堂に会する

画業に没頭し始めて間もない若冲が10年の歳月をかけて描き続けたのが「釈迦三尊像」と「動植綵絵」。

極めて緻密に描かれた「釈迦三尊像」と、あらゆる動植物の命が放つ瑞々しい美しさを描いた全30幅の「動植綵絵」は、重要な法要の際に「釈迦三尊像」3幅を正面に、その両側に「動植綵絵」を15幅ずつ並べかけて、仏画として使用されたもの。もともと京都・相国寺に寄進されたこの作品は、その後、「釈迦三尊像」3幅を相国寺に残し、「動植綵絵」30幅は皇室に献上され、今日まで伝えられてきた。

今回は、その「釈迦三尊像」(京都・相国寺)と「動植綵絵」(宮内庁三の丸尚蔵館)全33幅を一挙公開する貴重な機会となる。

■ 精緻な技の数々を堪能

彩色画にとどまらず、墨の濃淡で花弁や鳥の羽根の重なりを表現した水墨画をはじめ、拓版画では花木や山水を瀟洒(しょうしゃ)なデザインで表し、また多色摺版画では、鳥などを時にかわいらしく、時に雅に表現した若冲。多彩な技法を駆使した若冲だが、なかでも「鳥獣花木図屏風」は、画面を8万6000個もの細かい桝目に区切り、そのなかを色で埋めていくという、「桝目描き」という驚くべき技法を用いた大作。当時、日本にはいなかった異国の鳥獣も含まれ、生けとし生けるものすべてが仏になるという仏教の思想を反映した、動物たちの楽園が描かれている。

重要文化財「仙人掌群鶏図襖絵」は、金地を背景に、堂々たる鶏と少し不思議なサボテンを描写した6面の襖絵。老いて制作された障壁画の1つで、その他にも障壁画作品群は、若冲を代表する記念的画業といえる。

また、2008年にその存在が確認された「象と鯨図屏風」は、若冲82歳、最晩年の作品。ゾウとクジラという水陸最大の動物が向かい合い、声をあげ、飛沫を放つさまが描かれ、それまでの若冲作品とは異なる大胆な構図が見られる屏風絵の大作だ。

さらに、昨年2015年に、83年ぶりに発見されて以来、今回が一般初公開となる「孔雀鳳凰図」をはじめ、重要文化財の「菜蟲譜」、江戸絵画コレクター、プライス氏のコレクションから「旭日雄鶏図」など貴重な作品が出展。また、展覧会オリジナルグッズも多数用意する他、音声ガイドナビゲーターに女優の中谷美紀が就任するなど見どころは満載だ。メモリアルイヤーを飾るにふさわしい、珠玉の若冲展をぜひお見逃しなく。【東京ウォーカー】