医療機関のLGBTへの対応は?(shutterstock.com)

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 最近、TVやネットで目にしない日はないほど社会に浸透してきた「LGBT」という言葉。

 レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(性同一性障害など生まれつきの性別に違和感を持つ人)の総称であり、全国約7万人を対象にした電通の調査によると、LGBTの人の割合は人口の7.6%。13人に1人と推計されている。

 日本ではここ数年で急速に国や自治体、企業の中でLGBT支援への動きが活発化してきた。とはいえLGBTがいまだに「生きにくさ」を抱える状況はそう簡単には変わらないようだ。

 特にけがをしたり病気になったりして医療機関にかかると「心は女性なのに、男部屋に入院しろと言われた」など、セクシャリティーの問題にぶつかることが多いという。社会の認識は変化しつつも、医療現場の対応が整うにはもう少し時間がかかりそうだ。

ワシントンD.C.ではLGBT研修が義務

 一方、日本よりLGBTの人権保護が進んでいるといわれるアメリカではどうだろうか?

 今年の2月8日、LGBTのためのオンライン新聞「PinkNews」の報道によると、アメリカのコロンビア特別区(ワシントンD.C.)で「LGBTQ文化適正継続教育改正法」(LGBTQ Cultural Competency Continuing Education Amendment Act)が制定されたと、区議会が発表。

 これにより、コロンビア特別区内の医療従事者は全員、LGBTに関する研修を受けることが義務化された。

 LGBTはうつやメンタルヘルスの問題を抱えるリスクが高いという統計的なデータがある一方で、多くの医者はこれまでLGBTの患者が直面しがちな問題について、どのように対処するかについての研修を受けたことがなかった。

 この法案は、一部のLGBTの患者、特にトランスジェンダーが治療を受けるときに起こりやすい特別な問題に対処するために策定されたものだという。

 発案者である区議会議員のデビッド・グロッソ氏は、「私たちはLGBTの住民に、医療現場でのつらい経験について話を聞きました。特にトランスジェンダーの人々は失礼な扱いを受けたり、誤解をされたりしていました。問題を改善させるため、この法案を始めとする取り組みを続けていきたい」とコメントしている。

 研修は看護師を含めたすべての医療従事者を対象とし、「文化的能力」「LGBTなどを対象とした専門的な臨床研修」「性的指向についての質問」「性的アイデンティティと表現」などから2単位を履修する必要がある。

 類似の法案はアメリカの他の地域でも提案されているが、すべての医療従事者に研修を義務づけるといった統括的な法案を可決させたのは、コロンビア特別区が初めてだったという。
カミングアウトできずに病気が悪化

 LGBTの中でもとりわけトランスジェンダーにとって医療の壁が高いのは日米共通のようだ。性別が書かれている保険証を出すことや、人前で本名を呼ばれることへの抵抗感から受診をためらい、病気を悪化させてしまう例も少なくないという。

 またパートナーが同性の場合は、手術の同意書にサインができない、臨終の立ち会いを認められないなどのケースもある。

 昨年7月、ニュースサイト「SYNODOS 」に、女性の体で生まれたが心は男性のトランスジェンダーである遠藤まめたさん(29歳)が、免疫系の難病を患って入院した際の体験を記している(「LGBTが病気になると......」)。

 遠藤さんは、入院当初は病状が重く、入院生活に不安があってもカミングアウトをする体力と気力がなかったという。

 しばらくして「認可薬は不妊のリスクがあるから」と、医師から月6万円の高価な未承認薬を薦められたとき、「子どもを産むつもりはないから認可薬で大丈夫」と言ってもなかなか理解されなかった。そこでトランスジェンダーだと打ち明けると、すぐに認可薬が使えるようになったという。

 これは主治医にLGBTの知識と理解があったために、スムーズに事が進んだケースだ。しかし、もしカミングアウトができなければ、あるいは医師が理解してくれなければ、数十万円の負担増になるところだった。

 「LGBTは二重のマイノリティーになりやすい」と遠藤さんは指摘する。

 日本ではまだまだ、LGBTに対応できる医療機関や、医療従事者が増えているとは言えない。医療従事者へのカリキュラムの中で、ジェンダーやセクシャリティーの教育にしっかり時間をかけている学校はほとんどないからだ。

 近年はLGBTに関する知識や彼らのニーズを知らしめるために、医療者、教育者向けの本や冊子が何冊か出版されている。しかし書籍レベルではなく、養成時の教育カリキュラムを見直し、現場には研修を義務づけるなど、公的な対策を急ぐ時期に来ているのではないだろうか。
(文=編集部)