人気ドラマシリーズ「孤独のグルメ」の原作者・久住昌之氏が原案を務める土曜ドラマ「昼のセント酒」が9日から放送開始された。


全ては最高のビールの為に……、飲酒の為に存在する徹底的な“フリ”


ざっくり説明してしまうと、主人公が仕事をサボって銭湯に行き、酒を飲むこれだけの内容のドラマだ。おそらくは二話目以降もほとんど同じような内容だろう。果たしてそれだけで本当に面白いのか?それがビックリするほど面白い。

そもそも“好きな物を好きなように食べるだけ”の「孤独のグルメ」が大ヒットしたわけだから、「昼のセント酒」もこれで問題ないのかもしれない。では、「孤独のグルメ」との違いはなんなのだろうか?それは、 “仕事をサボる”“昼間”“銭湯” が作り出す徹底的なお酒の為のフリ にある。

「孤独のグルメ」の場合、前段階のドラマとメインである食事シーンの関連性はあまりない。主人公・井之頭五郎が、食事に没頭する様を見せ付けてくるだけだ。しかし、「昼のセント酒」の場合、前段階のドラマである銭湯シーンが重要になってくる。

 広告代理店で働く内海孝之(戸次重幸)は、同僚の大西大輔(柄本時生)が成果を上げる中、営業成績は断トツの最下位だ。女上司の堂園翔子(八木亜希子)に煽られ、京成小岩へと飛び込み営業に行くが、思うように契約を取る事が出来ない。落ち込んでいる内海の眼の前には、大きな煙突と鶴の湯の文字が……

「絶対にやってはいけない」、人はこの言葉に弱い。ダイエット中のスナック菓子、お金がないのにパチンコ、禁煙中のタバコ、人それぞれだが何かしら身に覚えがあるだろう。主人公・内海の場合、それが銭湯だった。しかも、仕事中に。しかも、結果が出ていないのに。この背徳感が銭湯での入浴、そしてビールの最高のつまみになる。全ては最高のビール為に……

細部にこだわる銭湯シーンも必見!


とはいえ、銭湯のシーンも細部にこだわりを感じる。ロッカー式の傘立て、黒電話、木で編んだ脱衣籠などの昔懐かしい年代物が登場し、内海だけでなく、観ているこっちもニヤニヤしてしまう。

入浴シーンでは、何人もの男達の裸体が登場するのだが、なんと一度もモザイクが使われていないのだ。持っているタオル、ケロリンの風呂桶、色のついた湯などを巧妙に使い、絶妙に股間が隠されている。特に鏡に映った男の股間を、鏡の水垢で隠しているシーンは、少年ジャンプのライトエロ漫画真っ青の神憑り的なカメラ回しと言えるだろう。

仕事は不真面目でも、お酒には真面目な内海


そしていよいよ本番、全ては最高のビールの為に……。定番であるコーヒー牛乳も我慢して銭湯を飛び出し、すぐに店を決めて中に入ると、これまた昔懐かしい雰囲気の大衆居酒屋。昼間から一人酒楽しむおじさん達で賑わっている。

焦ったようにビールを注文する内海。運ばれてきたビールに眼を見開き、一気に流し込むと「ゆっゆっゆっゆげゆ」という謎のBGMが流れだす。ビールを飲む喜びを立ちあがって表現し、大きな声で叫ぶ脳内妄想。

孤独のグルメではありえない過剰演出だ。だが、悪くない、むしろ合っている。これは、ただ喉が渇いて飲んだビールとは全く違う。仕事をサボって銭湯で汗を流した後のビールなのだ。これまで定説として存在した「仕事終わりのビールは最高」さえも上回る最高のビールの飲み方なのだ。

注文するのは350円という安価のレバフライ。皿に乗った四つのうち二つはビール、もう二つはハイボールかホッピーで食べると計算する。どんなにテンションが上がっても、最高のお酒を楽しむ為に、あくまでストイックな姿勢を崩すことはない。仕事は不真面目でも、お酒にはなんと真面目な男なのだろう。

一番好きなお酒を一番楽しむ為に完璧に演出する内海。やっていることは最低だが、なぜだかこういう人間には憧れを抱いてしまう。次回は「第二湯 代々木上原 大黒湯からのソーセージ5種盛り」4月16日深夜0時20分だ。

(沢野奈津夫)