コルクこれからのキーワードは質×親近感ファンとの接点を増やすのに、SNSの活用は必須。最近は関連商品の販売なども始めた。漫画をイメージしたスニーカーも今後発売予定(撮影/工藤隆太郎)

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 出版不況といわれる現代において、独自の視点からヒットを飛ばす人がいる。「宇宙兄弟」などをヒットに導いた佐渡島庸平さん(36)が持つ理論とは。

 今の時代、売れないものの代表格と言えば書籍。アエラも含め、本や雑誌の編集部は「読者に刺さるコンテンツを」と悪戦苦闘を続けている。ところが、「売れないのは本当にコンテンツのせいなのか。原因を見誤ってるんじゃないか」と、耳が痛い指摘をする人がいる。佐渡島さんだ。講談社の編集者時代、『ドラゴン桜』(600万部)や『宇宙兄弟』(1600万部)などのヒットを連発。2012年には、作家のエージェント会社「コルク」を起業した。

 佐渡島さん曰く、出版不況の最大の原因は人口動態だ。出版物の売り上げは、生産年齢人口と連動しており、人口が減れば部数が減るのは当然。そこに、流通の仕組みの弱体化や、SNSの台頭などの要因が加わった。

「本質的な原因はコンテンツ以外のところにある。であれば、コンテンツ自体をいじるより、自分がいいと思うコンテンツの魅力が、『ちゃんと伝わるように発信する』ことのほうが大事」

 佐渡島さんが提唱するのは「仮説を先に立てる」ことだ。通常は、情報やデータを見てから仮説を立てるが、(1)仮説を立てる(2)仮説を補強・修正するためにデータを集める、という順番が大事だという。集めるデータも、過去の数字より「日常生活の中でなんとなく集まってくる情報」や「自分の価値観」を重視するのが佐渡島流だ。『宇宙兄弟』の時の仮説は「女性読者が増えるとヒットし始める」。それまで、売れる漫画は7割が女性読者で、テーマが宇宙だと女性にウケないから売れないと思われていた。『宇宙兄弟』も発売当初は男性読者が7割で売れ行きもイマイチ。そこで、女性はどんな場所で本を手に取り、見る映画をどう決めるのか、などをひたすら考えた。たどり着いた結論は「美容室」。

 女性たちは、自分がセンスがいいと思っている行きつけの美容師から「面白いよ」と薦められればきっと読んでくれるに違いない! 20万円の予算で、首都圏の美容室400店に2冊ずつ、思いを込めた手紙を添えて郵送した。するとアンケートハガキに「美容室で薦められて読んでみました」というコメントがちらほら出てきたのだ。実際にハガキをくれるのは読者のごく一部。背後に同じような人が何倍もいたはずだ。もちろん漫画自体の力があってこそだが、火がつくきっかけの一つになった、と佐渡島さんは振り返る。(アエラ編集部)

AERA  2016年4月11日号より抜粋