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●会話の自動化でビジネスが変わる
Facebookは米国時間4月12日に開発者イベントF8を開催した。Facebookの長期ビジョンが基調講演のテーマとなったが、そのなかで、最も重要かつ大きな変化を遂げそうなサービスがメッセージアプリの「Facebookメッセンジャー」(以下、メッセンジャー)だ。

Facebookは、メッセンジャーのプラットホーム化を2015年のF8から進めており、これまではメッセンジャーでのコミュニケーションに、面白いビデオや画像を付加・投稿できるアプリ連携の手段などを提供してきた。対して、2016年のアップデートは、メッセンジャーをビジネスプラットホームに変えよう、というアイデアだ。

○会話の自動化でビジネスが進む

"メッセンジャーをビジネスプラットホームにする"という取り組みは、モバイルにおける非常に多くの物事、すなわち、我々の生活そのものを大きく変えていく可能性を秘めている。

企業は、Facebookユーザー個人との間でメッセンジャーを介したコミュニケーションができ、情報提供やサービス提供、コマースなどが実現できる。ユーザーも、メッセンジャーさえスマートフォンに入っていれば、アプリを見つけてインストールする必要がなくなる。

そして、もうひとつ。メッセンジャーのビジネスプラットフォームでは、企業はこれまでのように、ユーザーから届いたメッセージ、一件一件に、人力で対応する必要がなくなる。Facebookが披露した「Bots for Messenger」で、自動会話エージェントを作れるようになるからだ。

この自動会話エージェントとはどのようなものか。基調講演において披露されたSpringというコマースサイトのデモを例に挙げてみよう。

Springとのメッセージを開くと、「今日は何をお探しですか?」と取扱商品のカテゴリーの選択肢をボタンで表示する。完全な自由作文に加えて、あらかじめボタンで用意することで、ユーザーからの返答を受け、会話することができるのだ。

また、絞り込まれた商品や天気の週間予報など、複数のアイテムを横スクロールで表示するカルーセルも用意された。企業が持っているサービスを、定型的に、メッセンジャーのチャット内で利用できるインターフェイスへと進化したのだ。

●ビジネスプラットホームに変化させる2つの意義
○メッセンジャーアプリの変化とは

メッセンジャーは現在、1対1もしくはグループのコミュニケーションツールになっており、音声やビデオ通話をサポートし、画像やアニメーション、絵文字なども添付できるコミュニケーションプラットホームへと急速に進化した。ユーザー数は9億人で、毎月10億通のメッセージが流通する。このメッセンジャーをビジネスプラットホームに変化させる意義は2つある。

1つは、アプリなしでのモバイルの体験の実現だ。これまで、スマートフォンで企業がサービスを提供する際、まず考えるのが専用アプリだった。モバイルウェブよりも体験を作り込むことができ、ホームスクリーンにブランドのアイコンが表示され、エンゲージメントを高める役割も担ってきた。

ところが、必ずしもアプリのダウンロードとアカウントの作成が、ユーザーにとって快適な作業ではない。特に新興国では、以前として2Gの通信速度と少ないストレージのスマホが使われており、アプリのダウンロードや端末内への保持は、苦痛ですらある。

メッセンジャーのビジネスプラットホーム化は、これまで当たり前だったスマホ体験をよりライトなものに変えることで、ユーザーの負担を極限まで下げることができるだろう。

2点目は、Facebookのビジネスにおける影響力の拡大だ。企業のメッセンジャーアカウントは、Facebookページにひもづく。メッセンジャーでのビジネス展開を強化するには、企業のFacebook活用の拡大が不可欠であり、企業もユーザーも、より長い時間Facebook上で過ごすことになる。

モバイルでの広告や決済などが主力となってきたFacebookにとって、プラットホーム内での滞在時間の拡大は、売上自体を拡大させる最もわかりやすい変化といえる。

●チャットボットをどう見るべきか
○人工知能ボットへの過度な期待よりは……

2016年の1つのトレンドに、人工知能を活用したチャットボットがある。チャットボットは昔からあり、Twitterなどで利用されている自動応答システムがイメージしやすいだろう。そこに人工知能の要素を取り入れたのが、最新のチャットボットだ。

Facebookも、メッセンジャー向けに、より賢いチャットボットに鍛え上げるオプションを用意しており、メッセンジャー内で人間同士の自然なコミュニケーションが可能になることも期待される。

だが、従来のチャットボットは、実用性が低く、人工知能が活用されたところで、チャットボットが本当に役立つのか、と懐疑的に見る人もいるだろう。そのあたりについては、現段階ではまだ評価はしづらいが、筆者はこう考えている。従来型のチャットボット、つまり、単純な定型の会話でも、役立つ場面がたくさんあるのではないかということだ。

今回のフェイスブックの取り組みは、会話インタフェースを、好む人々のために、新たなビジネスの手段を提供したことの方が重要だ。

例えば天気予報アプリであれば、位置情報を送ったらその場所の天気を返す、という簡単なインタラクションで十分機能する。おそらく、天気アプリをインストールしたり、Google検索をするためにブラウザを開くよりも、友人との会話のついでに、ボットに位置情報を送るほうが10秒以上早く目的を達成できる。モバイルの世界で、秒単位の効率化がユーザー体験にとって重要なのだ。

また、前述のコマースの例でも、パターンから外れてしまい機械学習が必要な会話がすぐに必要だとは思わない。自社で揃えている商品のカテゴリ、サブカテゴリ、価格帯を選んでもらえば、おすすめの商品を提示できる。もし特定の商品が欲しければ、そのキーワードを話しかけて貰えば、検索結果を返せば良い。

まず重要なことは、人工知能以前の話だ。つまり、顧客が、自分たちのビジネスに何を期待し、どのような手順を用意すれば良いか。これを考えて、シンプルな会話のパターンに落とし込むことが重要なのだ。パターンから外れることは、今まで通り、実際の人が対応すれば良い。その経験を通じて、パターンを増やしていけばよいのだ。

このように考えると、メッセンジャーにおけるチャットボットの活用法は、数多くある。人工知能の活用したチャットボットの評価が高ければ、さらに大きな飛躍も期待される。Facebookのチャットボットを通じた新しいインタフェース。その今後に注目していきたいところだ。

(松村太郎)