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本が読まれなくなったという記事を時々目にする。Pew Researchの米国における調査によると、1年間(2015年4月まで)に一冊の本も読まなかったという回答者が27%だった。私も十数年前に比べると読書数が減っている。原因は明らかだ。ウエブ、映画、ゲーム、音楽など身の回りにコンテンツが溢れ、アクセスし放題のサブスクリプション型のサービスも増えた。さらにモバイルで、それらをいつでもどこでも楽しめる。そうした状況で、本は読了に時間がかかり過ぎる。調べ物に使う専門書だったら時間を作って読み切るものの、娯楽である小説は後回しになって積ん読状態になってしまう。本が嫌いになったわけではなく、むしろ本を読みたいと思っているのに手を付けられない……ジレンマだ。

積ん読の山を積み上げるばかりの自分に反省していたら、米フィクション界の大御所が救いの手を差し伸べてくれた。ジェームス・パタースンである。御年69歳、すでに世界で3億5000万冊以上を売り上げている大ベストセラー作家が、「今時300ページや400ページの小説を読んでもらえると思って売る方が間違っている」と断言しているのだ。

それを実証しようと、同氏は今年Bookshotsという小説シリーズを6月から出版する。短時間で消費できるように、ページ数は150ページ以下、価格は一冊5ドル以下。ラテ一杯程度の価格で、カフェでゆっくりするぐらいの時間で読み切れる文章量だ。短いだけではない。読者を飽きさせないようにテンポよく話が展開し、「映画を観るような読書」になるとパタースンは説明している。今や映画もYouTubeに比べると消費に時間がかかるコンテンツだが、長編小説に比べたら映画は短い時間で楽しめる娯楽であり、Bookshotsが一体どんな読書体験になるのか今から楽しみである。

パタースンのインタビューを見て、2年ほど前に読んだ「なぜ18世紀の本はスマートフォンのスクリーンのようだったのか」という記事を思い出した。

18世紀の本は、今日のハードカバーよりも小さくて細長い、今日のスマートフォンを思わせる八つ折り版が主流だった。理由は、軽くて片手に持って読みやすいからで、今日の雑誌の特集記事ぐらいの長さのエッセイが好まれていた。それが20世紀になって小説が人気になり、より高い価格(25ドル)に設定できる長編小説を出版社が仕掛けたことで、読みやすさよりも長編が収まる体裁へと変わっていった。今日スマートフォンでは本を読みにくいという人が少なくないが、18世紀に人々が持ち歩く娯楽だった頃の本は今のスマートフォンと同じサイズだった。そこで著者はスマートフォンで18世紀の本のレイアウトを模してみたところとても読みやすく、どこでも読めるから、これまになく読書がはかどっていると述べている。

現時点でBookshotsシリーズは、今年Hachetteから21タイトルが刊行される予定だ。パタースン作品の人気キャラクター、アレックス・クロスが登場する「Cross Kill」、ドラマになった「Zoo」の続編「Zoo 2」が第一弾になる。AmazonのKindle SinglesやBylinerなどデジタル版では短編の出版が増えているが、Bookshotsは短時間で楽しめるように内容まで工夫し、デジタル版だけではなく印刷書籍も販売する。薄い本は本屋で目立たないため、HachetteもBookshotsのフォーマットがすぐに受け入れられるとは考えておらず、最初はジャームス・パタースンのブランドに頼って新たなフォーマットの普及を目指す。

ジェームス・パタースンというと、日本ではここ数年新作が出ていないので、久しぶりに名前を聞いたという人もいるかと思う。その経歴では様々な物議を醸してきた。たとえば、20人以上の共同ライターを揃えた共同ライター制を採用し、多くの作品をパタースン・ブランドで売る手法が評論家や同業者からも批判された。でも、質にむらがあるわけではなく、数多くのパタースン作品はよく売れ続けている。書籍のデジタル化にも積極的に取り組み、2010年にはKindle書籍100万冊を達成した2番目の作家になった(1番目はスティーグ・ラーソン)。2005年に子供向けの作品を出版、それから短期間で45以上の作品を送り出し、3600万冊以上を売り上げた。販売部数を尺度とするなら、これ以上ない成果を生み出してきた。他にも、2015年には24時間で消滅(=24時間以内に読了しなければならない)する電子書籍が話題になった。内容で評価していない人でも、パタースン作品のファンが娯楽として楽しい読書体験を得ているのは認めざるを得ない。

様々な娯楽と競争する上で、書籍の未来が明るいとは筆者も思っていない。でも、消費者のライフスタイルにフィットするように提供すれば、今でも人々を惹きつけられることをパタースンは証明している。それは本だけではなく、他の消費に時間のかかる全ての娯楽に言えることである。

(Yoichi Yamashita)