どうしたって負けられない大会だった。参加国中、開催国枠のブラジルは別として、実力でリオデジャネイロ五輪の出場を決めているのは日本代表だけだった。地力の違いを発揮しての順当勝ちである。

「勝ててよかったです」と主将の桑水流(くわずる)裕策は漏らした。笑顔から汗が滴り落ちる。

「こんなところで香港相手に負けるわけにはいかなかった。リオオリンピックに向けて弾みがつくだけでなく、オリンピックの後にも道を作れてホッとしています」

 10日夕、雨上がりの香港スタジアムだった。7人制ラグビーの香港セブンズ・ワールドシリーズ(WS)コアチーム昇格大会の決勝戦である。相手は地元の香港、スタンドは「完全アウェー」の様相だった。その空気に飲まれたのか、日本は後半序盤、香港にトライを許し、リードを許した。スタジアム全体が歓喜で揺れた。

 でも、日本に焦りはなかった。『アティチュード(attitude)』、これが男子セブンズの日本代表のテーマである。取り組む姿勢、態度を意味する。桑水流主将が説明する。

「試合での心構えもそうです。下に落ちたボールは相手より先に体を張る、どんな時にも慌てないということです。逆転された時(の周りへ)の言葉は、"ノー・パニック"だけでした」

 ボールを持てば、必ずチャンスは訪れる。チーム全員がそう信じていた。逆転されて3分後、大小のパスで左右につなぎ、相手ディフェンスを揺さぶっていく。いまの日本の強みは、ボールを持たない選手もみんな、効果的に動いていることである。

 最後は左ライン際のトゥキリ・ロテが身を呈してパスを捕球、彦坂匡克とループ(※)し、ど真ん中に飛び込んだ。観客の凄まじいブーイングの中、坂井克行のゴールも決まり、19−14と逆転した。結局、24−14の勝利。
※ボールをパスした選手が、外に周り込み、パスをした相手から再度パスを受けるプレー

 帰化したフィジー出身のトゥキリが英語交じりの日本語で言った。右腕に巻いた肌色のテーピングテープには黒マジックで愛妻と愛娘の名前が書かれていた。

「ジャパンはグッド・チームだよ。フィットネスとタックル、コミュニケーションがよくなった。一番大事はディフェンスだった」

 なるほど、ディフェンスのレベルアップがチーム躍進の原動力となっている。特にこの2週間は、ディフェンス強化に徹してきた。前に出るディフェンスはそう変わらないが、メンバー間のコミュニケーション、個々の判断力が高まってきた。

 さらに低いタックル、倒したら早く起き上がってファイトする。試合中、懸命な戻りからゴールライン寸前の猛タックルでトライを食い止めた羽野一志は言い放った。

「最短コースを思い切り走っただけです。もうガッチリ、ボールに絡んで、"きたな"って。チームのディフェンスの堅さは断然、上がっていると思います」

 決勝こそ2トライを奪われたが、それまでの5試合はいずれも無失点だった。今大会、得トライが31本、失トライはわずか2本。鉄壁の防御と言ってもよい。経験がチーム防御に余裕をもたらしている。

 チームの環境は変わった。かつては大会の週の初めに選手が招集されて、週末に試合をするというパターンが普通だった。でも、日本協会が強化に本腰を入れている最近は違う。昨年からはコアメンバーとして、ほぼ同じ選手構成で継続強化できている。大会前もきっちり合宿を張る。

 いわば「正しい準備」の徹底である。一番成長したところは?と問えば、羽野は「全部が全部じゃないですか」と笑った。

「同じ人たちで合宿できることが成長する近道だと思います。(リオ五輪のメダルは)見えています」

 2年前のこの大会でWSコアチーム入りを決めた後、1シーズン強豪にチャレンジした。力不足を痛感しながらも、着実に力をつけた。1季でWSコアチーム降格も、昨年はリオ五輪出場権を獲得した。さらにWSに招待チームで参加し、3月の米国大会ではスコットランド、ケニアを倒し、6位と健闘した。

 経験値は上がった。男子セブンズの「アティチュード」も自信も高まった。男子セブンズの瀬川智広ヘッドコーチ(HC)は「香港より一日の長があった」と言い切った。これでコアチームとなり、来季はWSにすべての大会に出場できることになった。

 もっともチーム目標は、WSの大会でベスト4に入ること、リオ五輪でメダルを獲得することである。正直、まだ世界トップクラスのフィジーやニュージーランドなどとの差は大きい。フィジカル、スキルなどの力量アップは当然として、個々のフィットネスをもっと上げる必要がある。

 休む間もなくWSのシンガポール大会(4月16〜18日)に挑み、断続的に強化合宿を重ねていくことになる。リオ五輪前の7月には強豪国と試合をする計画も。

 瀬川HCは言った。

「今日の試合など、ゲームの駆け引きはまだまだだと思います。もっと走力で圧倒する、走り勝つという部分もまだできていないので、世界の中でここだけは負けないというものを作りたい。そういったスタミナと運動量、一人ひとりの仕事量をもっと伸ばしていきたいと思います」

 リオ五輪を山の頂点とすれば、まだ男子セブンズ日本代表の成長具合は五合目あたりか。でも霧で見えなかった山頂の『五輪メダル』がうっすら見えてきた。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu