現在の軽自動車(以下、軽)には"三大軽スポーツ"とでも呼ぶべき、マニアも認める3台が存在する。そのうちの2台は、この連載でもすでにご紹介した。ホンダS660(第103回参照)とスズキのアルト・ターボRS(第99回参照)だ。ちなみに、アルトにはその後、よりゴリゴリの体育会系テイストに高めた"アルト・ワークス"も追加された。

 そんな三大軽スポーツで今まで取り上げてこなかった最後の1台が、今回のダイハツ・コペンである。

 現在のコペンは一昨年秋に発売された2世代目で、それ以前の初代モデルは2002年から2012年まで約10年間生産された。初代コペンの現役当時、軽といえば実用的なハイトワゴン一辺倒。当時はS660もアルトのスポーツモデルも存在せず、軽スポーツ冬の時代を、コペンはひとりで支えてきたのだ。

 売れ筋のFF軽乗用車と共用する土台に、2人乗りの低全高ボディを載せて、オープンにもクーペにもなる電動格納ハードトップをあしらって......というコペンの基本構成は、今も昔も変わりない。ただ、最新のコペンは、鉄の骨格に樹脂のボディパネルをかぶせる構造になっている。そのパネルをネジ固定として、購入後にも樹脂ボディを着せ替え可能としたのが、今のコペン最大のツボである。

 今回取り上げるクルマも、基本は一昨年秋に発売されたコペンそのものだが、この"セロ"というカタチのコペンは、昨年夏に発売されたばかりの新バリエーションである。

 ちなみに、それ以前に発売されたコペン(厳密には"コペン・ローブ"というモデル)でも、30数万円のボディパネルセットを購入すれば、完全にセロに変身させることもできる(もちろん、その逆も可能)。しかも、「カタチはいいけど、ボディ色には飽きた」というなら、まるごと別色のボディセットを買えばいいし(ドアだけは塗装が必要だけど)、さらにはボンネットやフェンダーなどのパネルごとに色を変えて、モザイクカラー(笑)にすることも物理的には可能である。

 そう、コペンは「クルマを買い替えなくても、別のクルマに変えられる」というクルマ好きの夢を、現実的な価格と方法でついに実現した革命的存在なのである。

 軽にかぎらず、手頃な量産スポーツカーが世界的にあまり多く存在しないのには理由がある。スポーツカーは発売直後こそバカ売れしても、マニアにある程度いきわたってしまうと販売がガクンと落ちがち。で、スポーツカーは結局、数年スパンの継続的ビジネスが非常にやりにくいのだ。

 まだまだポッと出の新興勢力であるS660やアルト・ターボRS/ワークスは「いま売れてます!」と、ひとまずの初期人気に沸いている段階だが、軽スポーツを10年以上支えてきたコペンはちがう。このコペンを見れば想像できるように、ダイハツはすでに「長く売れるためのスポーツカー」という次のステップを真剣に模索しはじめている。

 コペンは乗り味でも、三大軽スポーツでもっとも大人っぽい。ミドシップでグリグリ曲がるS660や、パチンコ玉のように加速するアルト・ターボRS/ワークスのような瞬間芸はないが、しっとりと落ち着いて、タイヤは路面にじわりと吸いつく。それは軽とは思えないほど重厚で、高級感すらただよう。

 2人乗りのオープンカーであることや、いかにもスポーツカーらしく低い目線であることをのぞけば、乗った感触はまるでヨーロッパの高級コンパクトカーのごとし。表面的には薄味なのに、長く乗るほどにじわじわとダシが沁みてくる感じ。オープンにしたときは穏やかな身のこなしなのに、屋根を閉めてクーペにすると別物のようにカチッと俊敏......と、一粒で二度おいしく、しかもそれぞれに滋味深く、いかにも飽きずに乗れそうだ。

 また、コペンは着せ替えボディ以外にも、内装カラーの選択肢も多く、ルーフをカーボンファイバー柄にするステッカーシートが用意されたりもする。そして、非日常のスポーツカー感はアルト・ターボRS/ワークスよりは明らかに濃厚で、シート周辺やトランクなどは、S660よりはるかに実用的である。

 こうしてコペンは、ボディのスミズミまで「自分好みに仕立てて、飽きずに長く乗り続ける楽しみ」に徹している。スポーツカーといっても、表面的な速さや、激辛グルメみたいな刺激だけではすぐに飽きる。そんな市販スポーツカーのツボを、ダイハツは本当によ〜く分かっていらっしゃる。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune