最終日のハーフ時点では予想もつかない“まさか”の結末となった(撮影:GettyImages)

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 あれは今年3月のキャデラック選手権の初日だった。松山英樹とダニー・ウイレットが同組で回り、ラウンド中、2人は何度も笑顔で談笑していた。
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 あのとき松山は前週のホンダクラシックを股関節痛で途中棄権した直後だった。ウイレットは愛妻の第1子出産がマスターズウィークと重なると見られており、「おそらくマスターズには出ない」と公表したばかりで、ちょっとした“注目の人”となっていた。
 そんな2人がプレー中に談笑していたものだから、会話の内容が気になり、ラウンド後にウイレットに尋ねてみると、彼は松山が故障で棄権したばかりだったことは全然知らず、松山がフロリダに家を買ってアメリカに拠点を置いていることを「初めて知った」と言っていた。
「ヒデキの英語はわかりやすくてグッドだね。明日はもっと話をしてみようかな」
 たわいない会話を交わしながらマイアミで2日間をともに回ったあのとき、松山は、まさかそのウィレットが4週間後のマスターズで優勝することになるとは、きっと思っていなかっただろう。
 ましてや、松山自身が首位に2打差の3位という好位置で最終日を迎えたそのときに、自分より1打遅れの8位から最終ラウンドをスタートしたウイレットが、いつしか自分を追い抜き、首位を独走していたジョーダン・スピースをも追い抜き、わずか2度目の出場でグリーンジャケットを羽織るなどとは、きっと思っていなかっただろう。
 今年のマスターズウィーク中の松山は「何が起こるかわからないので」というフレーズを毎日のように口にしていた。米ツアーや世界の舞台で、いいことも悪いことも、たくさん経験してきた松山は、だからこそ予想外のことが起こると信じ、諦めず、気を抜かず、黙々と勝利に向かって進もうとしていた。
 けれど、それでもなお、誰の想像をも超えてしまうほどの「思ってもいなかったこと」が起こる。きっと、それがオーガスタの恐さであり、マスターズなのではないだろうか。
 それを一番痛感させられたのは、スピースだったと思う。前半に4つもスコアを伸ばし、通算7アンダーの首位で後半へ。折り返した時点ではウイレットより3打も上を行っていた。
 だからスピースは後半は「パーで十分」と考えた。しかし、その「パーなら十分」というゴルフの基本のような考えが、あれほど好調だった自分のゴルフを様変わりさせてしまうとは、彼だって思ってもいなかった。
「パーなら十分と思ったせいで、逆に十分に攻めることができなくなり、それが崩れる原因になった」
 10番はドライバーではなく安全策で3番ウッドを握ったら、中途半端な選択がスイングを乱し、やや右へ飛び出した。セカンドも迷いながら6番アイアンを握ったら、右のバンカーへ。そうやってボギーを喫した。
「11番もそうだった」
 思い切りの悪い選択はさらに彼のスイングを見出し、ティショットは右の林へ。ここでもボギーを喫した。
 そして、12番のパー3。
「もう1度、深呼吸することができなかった。集中することができず、打ち急いでしまった」
 1打目は池。打ち直した3打目も大ダフリして池に落とし、まさかの「7」を叩いて失速した。
「なぜ、2度目のティショットをうまく打てなかったのか。7ではなく、せめて5でおさめていれば、あそこで僕はまだ首位タイでいられたのに、、、、」
 それがスピースにとって最大の「思ってもいなかった出来事」であり、最大の悔いとなった。
「この悔しさを克服するまでには時間がかかりそうだ」
 7位に甘んじた松山の胸の内も悔しさでいっぱいだったが、何がどう悔しいのかは「これから考えたい」。すぐには整理がつかないぐらい、あまりにも多くのことが起こった4日間だった。
 3月末に男の子が無事に生まれたおかげでウイレットが今年のマスターズに出場できたこと自体、予想外で予定外。そして、2連覇に王手をかけていたスピースがまさかの大叩きを喫し、マイアミで楽しく会話を交わした松山が序盤から後退し、その中で自分はノーボギーの見事なゴルフで勝利をモノにしたこと。それはウイレットにとっては「まだ信じられない」というほどの「思ってもいなかった」うれしい勝利だった。
 「今日は僕の日だった」
 ラッキーとアンラッキーは同量だという話をどこかで耳にしたことがある。そうだとすれば、「松山の日」も「スピースの日」も、きっときっと訪れる。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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