2016年4月11日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

ITやデザイン業界に属している方のみならず、米国の起業家イーロン・マスクと言えば知らない人はいないだろう。電気自動車・テスラでお馴染みのCEOである。

ただ、彼がCEOを務めるEV(電気自動車)開発・販売企業テスラは知っていても、イーロン・マスクがテスラ以上に情熱(とカネや時間)を費やしている宇宙ロケット開発企業 Space Xのことを詳しく解説できる人は、そう多くはいない。

そのSpace Xはつい最近、宇宙ロケットを打ち上げるとともに、ミッションを終えたロケットを、海の上に置かれた洋上無人船に着陸させることに成功した。このニュースは世界的に報道されたが、ほとんどの人は、イーロン・マスクがなぜこの実験をしたのかを理解していない。

IT業界、特にベンチャーに関わる人たちはDisrupt(破壊する)というキーワードが大好き。Uberなら旧来型のタクシー業界を破壊するし、AirBnBは旧態依然とした宿泊産業を破壊する。

テスラはEVによって、既存の自動車メーカーを、というより、ガソリンを中心とした”化石燃料”を使う内燃機関=エンジンを用いた自動車産業を破壊し、バッテリーとモーターによる新しい自動車産業を作ろうとしている。ならば、Space Xは何をDisruptしようとしているのか、理解されているだろうか。

Space Xを理解するには、まず、従来の宇宙ロケットというものが「使い捨てである」ということを理解する必要がある。

え? スペースシャトルは何回も使っていたじゃないかって? 確かにそうだ。しかし、スペースシャトルを大気圏外に運ぶためには宇宙ロケットが要る。そして、そのロケット自体は一度使ったら、もう使えない。しかもスペースシャトル自体のメンテ費用は実は莫大で、使い捨てロケットそのものよりもコスト高なのだ。故に、ご存知の通り、今ではもうスペースシャトルは使わられなくなった。

Space Xが取り組んでいるのは、再利用可能なロケットを作ることだ。再利用可能というのは、すなわち、大気圏外に飛び出たあとで、再び地表に戻り、破損することなく着陸することである。そう、Space Xがこれまでロケットを飛ばす実験よりも、着陸実験を繰り返しているのはそのためなのだ。


さらに言うと、地上に着陸させるよりも洋上に着陸させた方が(万が一の際に)安全である。だから洋上での着陸を成功させた、というのは実に大きなニュースなのだ。

宇宙ロケットが繰り返し使えるようになれば、飛行コストは下がる。そうすればいつか有人飛行を可能にさせたときに、より多くの民間人を宇宙旅行に連れ出すことが可能になる、というわけだ。

イーロン・マスクに憧れる経営者や起業家予備軍は多い。が、彼から学ぶべきところはその気宇壮大なビジョンとともに、まず解決すべきポイントを思い切り絞り込むその着眼点になると思う。

このニュースを予め知っていたけど、何が凄いのか良くわからなかったという方がいたとしたら、アントレプレナーの考える本質的な思考プロセスを、同様に考えてみてもらいたい。

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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